号外:北極海の氷を増やす気候テック

北極に行ったことがあるという人は、まあ、いらっしゃらないでしょうね。地球儀のてっぺんにあって、氷に覆われた寒いところだということは分かっていても、なかなか具体的にイメージしづらい場所だと思います。しかし北極の環境は地球の気候に大きな影響を持っていて、しかも地球上でもっとも温暖化が進んでいる場所だということです。この北極の状況を改善するために検討されているプロジェクトを紹介している記事です。私たちにとって日頃なじみの薄い場所ですが、とても大切な場所であることがわかります。

2023年2月21日付けSustainable Brands Japanに掲載された記事より、

北極海の氷(イメージ)

“気候の安定に北極が果たす役割は大きい。しかし、北極では過去43年間、地球のどの地域よりも約4倍の速さで温暖化が進んできた。気温は1980年と比較すると平均で約3度上昇している。このままでは2050年までに北極では夏に氷がなくなり、地球上すべての生き物に被害が及ぶ壊滅的なブルーオーシャン現象が起きると予測されている。”

北極の急速な気温上昇は、地表が太陽光を反射する反射率(アルベド)による影響「アルベド効果」の低下が原因だ。北極のように雪に覆われた土地は、太陽光を反射するため気温が上がりづらい。気温が低下すると、氷の面積が増え、さらに気温が下がることからアルベド効果が高いといえる。これにより北極は地球を冷ます重要な役割を果たしてきた。しかし、近年の北極は温暖化により氷が溶け、暗い海水が露呈することで太陽光を反射する表面積が減っている。太陽光を吸収することで温度は上昇し、雪解けとさらなる温暖化を招いている。この現象は北極の温暖化を加速し、地球全体のエネルギーバランスを不均衡にしている。”

“気候変動や北極の氷の融解を緩和する従来の対策は十分な速さで進展していない。そのため、科学者やイノベーターたちはクリエイティブでこれまでとは異なる方法により、アルベド効果を高め、北極の氷を維持・回復させることに取り組んでいる。”

Real Ice(イメージ)

“英ウェールズのバンガーに本拠を置くリアルアイス(Real Ice)は、風力や潮力などの再生可能エネルギーを活用し、海氷を厚くし、北極圏の生息地を保護しながら、生態系を回復させるシステムを設計する。バンガー大学発のスタートアップである同社は、米アリゾナ州立大学地球宇宙探検学部で天体物理学教授を務めるスティーブン・デッシュ氏と、同氏の考える北極海氷管理構想から生まれた。リアルアイスは、再生可能エネルギーを使った装置を使って拡張性のある方法で海氷を増やそうと考えている。リアルアイスの創業者兼CEOのキアン・シャーウィン氏は、取材に対し「私たちの事業は、政府や企業、地域社会の関心に火をつけ、構想を北極圏全域に拡大し、十分な規模で技術を活用していくことです。規模の大きい企業・自治体などが多く参画する科学・技術を促進するカタリスト(触媒)になりたいです」と語る。

Real Iceの仕組み

“同社の技術は、冬の間に海氷の下にある海水をくみ上げ、表面に吹きかけて海氷を厚くするというもの。これによりアルベド効果を高め、夏から冬まで氷を持たせることで、数年かけて形成される多年氷をつくろうとしている。リアルアイスは既存の技術をうまく利用することで、技術の完成・展開にかかる時間を短縮したい考えだ。現在、レジャー施設などで使われている氷をつくる送水ポンプはディーゼルエンジンで動くが、同社のイノベーションは再生可能エネルギーと既存のポンプ技術を組み合わせる点にある。

“シャーウィン氏はこう話す。「ご存知のように、現在の予測では、広域災害が起きるとされる地球規模の転換点への到達を避けるという気候目標の達成は不可能だとみられています。私たちは、予測されている北極海氷の寿命を延伸し、海氷を復活させるために世界規模で貢献したいと考えています。もしこのプロジェクトが成功すれば、人類がほかの重要な気候変動緩和策を進展させるのに費やす時間を増やすこともできるでしょう」。”

“リアルアイスは海氷の急激な融解への対策として、コミュニティや野生生物が最も大きな影響を受けている地域で技術を開発し、装置を配置することを目指している。さらに、その過程に先住民族の評議会を含めることを約束し、生態系の破壊によって直接的な被害を受ける先住民が同社の取り組みから恩恵を受けられるようにしている。 “「今年後半には、北極でグリーン水素を使って氷を作り出す実験をしたいと考えています。波力や潮力、風力を使った水素製造は世界的に大きく進展しており、2~5年のうちにエネルギー生産を数ギガワットにまで拡大する装置が利用できるようになるでしょう」。同社は4年以内に、北極圏にある一つの湾をすっぽり覆うのに十分な海氷をつくり出すことを目指している。そして、政府や大手企業のパートナー、地域コミュニティと協働・連携し、技術の活用を拡大し、展開方法を向上させながら規模を拡大していく考えだ。

Follow me!