号外:温暖化ガス排出量、先進国推計に異論

「国別や産業別の温暖化ガス排出量(CO2換算)」のようなデータや情報を見るたびに、実は、「いったいどのようにして測定しているのだろうか?」と常々不思議に思っていました。私のような門外漢が十分に理解できたわけではありませんが、下記の記事はとても参考になりました。温暖化対策を実施するためには正確なデータを評価することが重要ですが、データを得ること自体が決して簡単なことではないですよね。

2023年3月20日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

地球温暖化対策にあたって先進国が示す温暖化ガスの排出量の推計に異論がでてきている。民間が人工衛星などで解析したところ、例えば米国で化石燃料を生産・輸送する時の排出量は、これまでの推計値よりもドイツ全体を超える規模で多かった。3月20日に気候変動に関する報告書を発表する国連などの公的機関も、新たな手法を参考にしながら推計方法を見直していく可能性がある。”

石油・ガスの生産や輸送などに伴う排出量(CO2換算)

先進国は気候変動枠組み条約に基づき、温暖化ガスの排出・吸収量を毎年推計して国連に報告している。基となるデータはエネルギーの生産や消費量、製品・サービスの量などの政府統計が多い。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が科学的根拠に基づく指針を出している。温暖化対策の最も基礎的なデータの一つだ。”

最近はCO2やメタンが特定の波長の電波を吸収するといった科学的な特性を利用する技術が進み、民間が排出量の実測を試みている。国際NGO連合「Climate TRACE」は2020年に発足し、世界中でほぼ全ての人為的な排出を常時監視することを目指す。グーグルなどテック企業のほか、米元副大統領のアル・ゴア氏、米ジョンズ・ポプキンス大などが協力する。300超の人工衛星に届く太陽光の反射や、地表面付近にある3万のセンサーのデータなどから独自で排出量を算定する。2021年に石油施設や製鉄所、船舶、農場などからの排出量を公表し始めた。このほど対象を世界の主要な700万超の施設に広げた。”

実測を重視するこの算定方法では、化石燃料の生産と精製、輸送に伴う排出量に各国の報告との違いが生じている。米国は国連に対し、2020年の同分野の排出量をCO2換算で3.7億トンと報告した。Climate TRACEの算定では、3倍超の11.8億トンに上る。報告との差はドイツ全体の排出量(6.4億トン)より多い。見過ごされている排出は油田などで不要なガスを焼却する「フレア」のほか、石油から揮発するガス成分などの可能性がある。天然ガスはパイプラインでの輸送時などに漏れる。こうした排出を政府は正確に捉えられていない。Climate TRACEの分析と報告の違いはオーストラリアで2.5倍、ロシアは4.6倍になる。国全体の排出量を森林による吸収を考慮しないで比べると、米国はClimate TRACEの分析では2020年に約62億トンで、国連報告の約60億トンを上回る。分野によって実際の排出が推計を下回る分野もあるとみられる。

“国連のIPCCは3月20日に気候変動の影響や対応策を分析した新たな報告書の発表を予定している。国連気候変動枠組み条約事務局の広報担当者は、国連への報告と民間の測定にずれがあるのは「データの収集や算定の方法が異なるため」と説明している。「(衛星観測など)科学者らの取り組みを認識しており、国連事務局としても算定の精度向上のために努力すべきことは多い」と述べた。”

排出を「見える化」する動きは各国の政策だけでなく、企業にも影響を与える。事業所単位で把握すると、企業ごとにどれだけの温暖化ガスを排出しているかを比べられる。排出削減が進む企業はESG(環境・社会・企業統治)投資を得る機会となる。削減が鈍く報告が不正確な企業は投資家や消費者から見放されるリスクがある。気候変動に関する国際枠組み「パリ協定」の目標達成には、今世紀の半ばまでに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。排出量を正確に把握しなければ達成の道筋は描けない。

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