号外:G7環境相声明、日本に試練

4月15~16日に主要7ヶ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が札幌で開催され、共同声明が発表されました。参加国はG7(日、米、英、独、仏、伊、加)+EUで、招待国としてインド、インドネシア、UAEが参加しました。日本は5月に開催されるG7広島サミットに向けて、温暖化対策の分野でリーダーシップを発揮したいところですが、現状はなかなか厳しいものがあります。

2023年4月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

G7気候・エネルギー・環境相会合、2023 at 札幌

“主要7ヶ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合がまとめた共同声明は、議長国の日本に重たい課題を突き付けた。2035年の温暖化ガス排出削減量を「2019年比60%減」と盛り込んだ。再生可能エネルギーの導入が遅れ、原子力発電所の再稼働が進まない日本にとってハードルは高い。共同声明の策定過程で日本は「防戦」続きだった。象徴は石炭火力発電所だ。温暖化ガスの排出量が多いとして欧州などは廃止時期の明示を迫った。日本は2030年度も発電量の2割弱を石炭火力に依存するため受け入れられなかった。石炭火力発電所でアンモニアを混焼する取り組みにも批判が相次いだ。日本は脱炭素の主軸の一つに捉えている。”

“アンモニアだけを燃やせば温暖化ガスを排出しないが、本格的な商用化の目標時期は2040年代以降になる。2035年目標には貢献しない。英国のシャップス・エネルギー安全保障・ネットゼロ相は「石炭の温存につながる」と話す。効果が見通せないとの指摘もある。英国のシンクタンクの分析ではアンモニアの50%混焼を実現しても、ガス火力発電より多くの温暖化ガスを排出するという。発電のアンモニアの活用にはG7の複数の国が明確に反対し、声明からの削除を求めた。声明では「水素とその由来物」という表現にし、アンモニアという直接的な文言を避けて決着した。国内ではJERAが愛知県碧南市の石炭火力発電所でアンモニアと石炭の混焼に取り組み、IHIなどがアンモニアを燃料に発電するガスタービン開発にあたるが、逆風が強まれば事業展開に影響する可能性もある。”

“岸田文雄が「グリーン・トランスフォーメンション」(GX)の表現を使って進める脱炭素の取り組みにも各国から注文がついた。「GXは言葉が曖昧だ」。声明の交渉過程で米国が公然とこう指摘した。いくつかの国はGXの削除すら求めた。日本が策定したGXの工程表は開発する技術の優先順位が明確でなく、どの技術がどれだけ2035年目標に貢献するのか見通せない。

“合意が一番最後までもつれ込んだのがEVの導入目標だった。英国は2035年までに主要市場での販売のすべてをEVなどにするよう要求した。米国は今後10年の小型車販売でEVなどを5割にする案を求めた。日本は自動車から出るCO2を2035年までに少なくとも2000年に比べ半減するとの文言で理解を求めた。米国は販売台数による数値目標を明記するよう主張した。交渉は15日深夜にもつれ込んだ。明確な数値目標としてではなく米国が主張する表現を盛り込んだうえで「可能性に留意する」という曖昧な文言で声明は決着した。”

EVの導入目標や石炭火力の廃止時期など日本は共同声明の随所で数値目標の設定を避け続けた。議長国ながら米欧が求める意欲的な脱炭素目標に抵抗する面も目立った。目標設定から逃げることは結局、自分たちにはねかえる。米欧は具体的な年限や数値を盛り込んだ規制や法制化により脱炭素を進めてきた。日本は産業界への配慮などから、G7などの国際会議だけでなく、国内向けにも明確な数値目標を定められないことが脱炭素の取り組みの遅れにつながっている。日本企業は太陽光パネルなどの再生可能エネルギーやEVの技術もかつては世界の先端を走っていた。国内の規制や政策で見劣りして普及が進まず産業競争力を失い、中国や欧州メーカーに席巻されてきた。”

ウクライナ危機ではエネルギー安全保障と脱炭素に一体で取り組む重要性が鮮明になった。先行する脱炭素技術をスムーズに実用化し、普及期に競争力を高めていけるかが2050年の「カーボンゼロ」と、電力の安定供給などにつながる。「守り」に終始した議長国から、世界の脱炭素をけん引する「攻め」へと転換していく必要がある。

Follow me!