号外:アンモニア、脱炭素の「伏兵」①

火力発電に使われる石炭や天然ガスの代替として、燃焼してもCO2を排出しない水素やアンモニアが注目されています。燃焼時だけでなく、水素やアンモニアを製造する段階でのCO2排出量や、保管や輸送時の条件・コストなど、考慮しなければならない点は多々ありますが、次世代のエネルギー源として技術開発が進んでいます。

2023年3月27日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

再生可能エネルギーや原子力に続くCO2を排出しないエネルギー源として、アンモニアが脚光を浴びている。脱炭素の切り札とされる水素よりも保管や輸送が容易で、現実的な実用化を見込める「伏兵」として注目される。2030年ごろには生産から燃焼に至る一連の技術が出そろう見通しで、普及機に向け着々と技術を磨く。石炭や天然ガスを燃やす火力発電の一部を置き換えそうだ。

現在主流の製造法(エネルギーを大量消費)

温暖化ガスをほとんど出さない世界初のアンモニアガスタービンの試験運転がIHIの横浜事業所(横浜市)で進む。3千~4千世帯の電力を作る2千キロワット級だ。技術は確立済みで、クリーンとされる天然ガスと比べても温暖化ガスは100分の1だという。2025年に工場やビルの自家発電用などに実用化する。実現のカギは同社が70年磨いた燃焼技術だ。アンモニアを2段階で効率よく燃やすなどして、亜酸化窒素の発生を抑えた。亜酸化窒素は温暖化への影響がCO2の約300倍大きく、対処が課題だった。”

発電所用に大型化も狙う。2023年1月には米ゼネラル・エレクトリック(GE)と数十万キロワット級の開発で提携した。数基分で大型原発に匹敵する発電能力で、2030年に発売を目指す。IHIは、2030年にはアンモニア発電の利用が本格化し、脱炭素社会の実現に役立つと期待している。アンモニアに先行して脱炭素の切り札とされたのは燃やすと水になる水素だった。2000年代末から家庭用燃料電池や燃料電池車(FCV)が登場した。だが、保管や輸送に使うタンクを大気の数百倍の高圧にするか、零下253度の極低温の状態にする必要がある。インフラ整備が難しく発電分野への普及が遅れた。

“その水素に代わって注目されるのがアンモニアだ。数気圧か零下33度で保管でき、通常のガスタンクで扱える。今後は発電量が天候に左右される再生可能エネルギーの普及が進む。現在は補助電源として石炭や天然ガスが担う出力調整の一部をアンモニアが代替する期待が高まる。三菱重工業も4万キロワット級の開発を目指し、2022年夏に中核部品の燃焼器の試験を始めた。2025年にも実用化する計画だ。排熱を使い発電効率を高めるなどして、シンガポールの発電所への納入も検討する。化石燃料や再生可能エネルギーの資源が乏しい国ではアンモニア発電は重要になるという。”

次世代の製造(製造時のCO2排出量低減へ)

“燃料のアンモニアは現在、北米や中東で産出する天然ガスなどを現地で改質してつくる。今後普及が見込まれる、再生可能エネルギーの電力で水を分解する「グリーンアンモニア」も安くつくれる南米などが供給源だ。日本政府は発電用途の拡大に伴い、アンモニアの需要が2030年に2021年比で3倍の300万トン、2050年に同30倍の3千万トンに増えるとみる。エネルギーや運輸各社は大量輸入を見据えて動く。JERAは2028年までに従来の約2倍の最大7万トンを積む輸送船を商業運転する。米国や中東から愛知県碧南市の発電所へ運び、石炭に混ぜて燃やす。商船三井は燃料にアンモニアを使う輸送船を2026年ごろに運行する。大規模な貯蔵施設も開発が進む。出光興産や東ソーは2030年までに、山口県周南町の液化天然ガス(LPG)タンクにアンモニアをためる体制を整える。周辺の工場へ年間100万トン超を供給し、自家発電用などに使う。2023年2月に視察した西村康稔経済産業相も「保安規制への対応などで後押しする」と期待する。三菱商事や三井物産は米国で2020年代後半にアンモニアの生産を始める計画だ。三菱商事幹部は「脱炭素の実現に向け、アンモニアの導入を含むあらゆる手段を追求する」と話す。”

脱炭素の観点から中長期ではグリーンアンモニアの利用が必須だが、生産コストが1トン約1千ドル(約13万円)と天然ガス由来の約2~4倍高い。大量のエネルギーを使い高温高圧の条件でつくるためだ。出光興産はこのコストを下げる技術に挑む。東京大学のモリブデンの触媒を活用し、1気圧、約20度で生産する。コストは現在の4分の1の約3万4千円に下げられる見通し。水素を経ずに水から直接つくる技術で、消費エネルギーを減らせるという。2025年にも試験生産を始め、2032年ごろに量産する。大阪ガスなどが出資する米スタートアップのスターファイアエナジーもコスト半減を狙う。ルテニウムなどの触媒で圧力を10分の1に下げた。モジュール型の設備を2026年に発売する。大阪ガスは「長期的にはグリーンアンモニアを1トン450ドル(約6万円)でつくれるという。”

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