号外:アンモニア、脱炭素の「伏兵」②
燃焼してもCO2を排出しないアンモニアを、発電などで使用する次世代エネルギー源として活用しようという話題の続きです。
2023年3月27日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“水素は体積当たりのエネルギー密度が非常に低い。例えばガソリン1リットル燃やした時の発熱量を得るには、約3000リットルもの水素がいる。大量かつ効率的に貯蔵・輸送するには、気体圧縮または液化するのが前提となる。液体にすれば体積を800分の1まで圧縮できる。しかし、液化温度は常温(1気圧)で零下253度という超低温だ。液化天然ガス(LNG)は零下162度で、さらに90度も低い。冷却で多くのエネルギーを使い、さらに気体になりやすく貯蔵タンクから水素が一定割合で減る「ボイルオフ」も起きる。この問題を解決するのが、水素化合物に置き換え貯蔵して運搬する手法だ。アンモニアに転換すれば、常圧で零下33度、常温(20度)でも8.5気圧という比較的温和な条件で液体にできる。分解して水素を取り出し燃料電池車などに使えるほか、それ自体を燃料として発電所で燃やせる。アンモニアは水素や天然ガスと比べ燃えにくく発熱量も少ないが、燃焼の工夫で解決できる道筋は見えている。人体への有毒性も懸念されるものの、肥料などで国内需要量のうち約2割を海外から輸入しており、供給網全体で安全に取り扱う知見がすでにある。”
“大きな障壁はアンモニア製造法だ。アンモニアの生成は科学産業の中でも最もエネルギーを消費する製造工程の1つとされる。国際エネルギー機関(IEA)によると、アンモニアの製造には世界の最終エネルギー消費量の約2%を占める8600兆キロジュールを使う。原油換算で約2億トン分にあたる。製造・運搬に投入したエネルギー量より、アンモニア発電で得られるエネルギー量は減る。何より製造時のCO2排出量の大きさが見逃せない。アンモニア製造のうち天然ガスと水を反応させる手法は全体の約70%を占め、残りも石炭を使った手法が大半だ。化石燃料と高温で反応させて水素を得るためで、副産物としてCO2が多く発生する。反応にはセ氏800~1800度が必要となり、この熱源などのために化石燃料も使う。得た水素と窒素を合成してアンモニアをつくる反応も350~500度、100~400気圧という過酷な条件だ。アンモニアは生産量1トンあたり約2.4トンのCO2を出し、IEAによれば粗鋼生産の約2倍(直接CO2排出量ベース)に相当する。”
“それでも脚光を浴びるのは、水素の輸送時の液化コストが高いためだ。最終的な発電コストをさげられる。資源エネルギー庁などによると100%燃やす「専焼」の場合、1キロワット時あたり発電コストは水素が97.3円、アンモニアが23.5円と弾く。試算はいずれも天然ガス由来で出るCO2の分離回収を条件とした。”
“再生可能エネルギー由来の水素でアンモニアをつくれば、国産調達も可能になる。日揮ホールディングスと旭化成などは2024年にも国内で製造実証を始める。ただ、現実には日本に太陽光や風力発電に向く大規模な適地が少ない。国内需要を賄うには中東や南米など日射量が豊富な地域で製造し、輸入する将来像を政府は描く。新製法の開発も進む。出光興産は常温・常圧の温和な条件による試験生産を2025年にも始める。東京大学で開発された触媒をベースに、水素を経ずに一気にアンモニアの合成までできる。脱炭素エネルギーで有力なのはアンモニアか水素か。どちらも運搬・発電で使いこなす技術は日本にそろっており、最後はインフラ整備次第だと言われている。双方ともエネルギー源の多様化に貢献する。経済安全保障上の重要性はともに高いが、将来は資金や人材を有効に配分できるように優先順位の見極めも必要となる。”
“再生可能エネルギー由来の水素からつくる「クリーンアンモニア」はCO2の排出量が少なく、発電用として将来有望視されている。カナダの調査会社、プレシデンス・リサーチによると発電や船舶燃料、肥料向けの市場規模は2030年に2021年比約150倍の54億8000万ドル(約7000億円)と急速に拡大する。日本がアンモニアの用途で照準を合わせるのは発電用だ。政府は2030年までにガス火力に30%の水素混焼や水素専焼、石炭火力へ20%のアンモニア混焼の導入・普及を目標としている。日本では、生産時に発生するCO2を回収した石油や天然ガス由来の「ブルー水素」や、太陽光発電や風力発電に由来する「グリーン水素」を量産しづらい。そこで海外から水素をアンモニアに変換して輸送し、発電に使う技術に軸足を置く。輸送については肥料用途などのアンモニアを運ぶ船がすでに確立している。燃料として燃やす技術は発展途上なため、補助金などの支援を手厚くしている。”
“発電用途の支援では中国や韓国と競う。中国では大手電力会社が石炭火力発電でアンモニア混焼を実施している。韓国ではアンモニア発電で2027年までに20%混焼を実証し、2030年に石炭火力発電所43基中24基で20%混焼を目標とする。資源エネルギー庁によると、中韓は日本と同様に燃焼技術の開発が進み、競争が過熱しているという。一方、欧米は「水素キャリア(運搬媒体)」としてアンモニアに着目する。例えば欧州では域外からアンモニアを輸送するための供給網がすでに存在し、製造や取扱い方法も確立されている。アンモニアは液化水素などと比べて有望な水素キャリアになりうる。しかし、いずれ欧州も直接のアンモニア利用に乗り出す可能性があり、今のうちに日本企業の技術を国際標準化することが望まれる。”