号外:沖縄・久米島「脱炭素の島」へ

私は子どもの頃、福岡県で生まれ育ったのですが、これまで沖縄県へ行ったことがありません。したがって、久米島も、自然豊かな島という印象があるだけで、そこでの生活については想像するばかりです。その久米島が「脱炭素の島」になろうとしているという話題なのですが、そこには離島であるがゆえの事情もあり、それだけに現実味のある計画になっています。これをモデルケースとして、小さな単位(地域)でのエネルギー自給自足を進めていけば、やがて大きな成果につながるのではないかと感じています。

沖縄県・久米島で海洋深層水を使った温度差発電プロジェクトが進んでいる。プラント大型化に向けた実証が始まり、技術確立にメドが立ちつつある。久米島町は2040年に島内の電源を100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、温度差発電をベース電源に据える。海産物養殖などでの深層水の再利用を通じた経済振興も図りながら「脱炭素の島」を目指す。”

“久米島は沖縄本島から西へ90キロメートルほど離れた人口7000人あまりの離島。電源の95%は重油燃料の火力発電が占める。その島の北側で進むのが、再生可能エネルギーの一つ、海洋温度差発電の実証だ。沖合2.3キロの水深612メートルからくみ上げた約9度の深層水と23~29度程度の表層水の温度差で電気をつくる。沸点が低い代替フロンやアンモニアを暖かい水で気化させてタービンを回転させて発電し、冷水で再び液化して循環させる。

海洋温度差発電の仕組み

表層の水温が高い亜熱帯の沖縄周辺は適地とされる。天候や季節の影響を受ける太陽光や風力と異なり、通年で安定的に発電できる。現在は県が2013年に設けた出力計100キロワット相当のプラントを使っている。商用化に向け、商船三井と佐賀大学、プラントを運営するゼネシス(東京・江東)が今年初めにプラント大型化へ向けた実証に着手した。現在の倍となる200キロワット相当の発電に使える熱交換器の性能を検証する。久米島町は実験機の10倍の1000キロワットのプラントを導入できれば、2030年に電力量ベースで島内の15%を賄えると試算する。商船三井は2026年ごろのプラント建設を目指している。町が2020年に策定したエネルギービジョンでは、島内で消費するエネルギーを2040年までに100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げる。洋上に5000キロワット級の「浮体式」の海洋温度差発電設備を設け、消費電力の7割超を生み出す計画だ。”

久米島町2040年の計画

“実現には2つの課題がある。一つは深層水の取水管の拡大だ。今は直径28センチメートルのパイプで1日1万3000トンをくみ上げている。出力を上げるには14倍の18万トンが必要で、直径1.5メートル級の取水管新設が不可欠となる。新設には数十億円規模の事業費がかかるとみられ、国や県による予算計上が欠かせない。現在の取水管も国と県が30億円弱を投じて設けた。もう一つの課題は発電コスト。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算によると、商用化後の発電コストは1キロワット時あたり31~44円という。資源エネルギー庁は2020年時点の積算で石油火力が27円ほど、太陽光は約18円と見積もっている。前提条件が異なるため単純比較はできないが、海洋温度差発電は高い水準にある。”

発電コストを削減していくうえで期待されるのが、深層水の産業利用だ。久米島では低温で栄養豊富な深層水を活用しようと、発電所周辺にクルマエビや海ぶどう、カキの養殖場など約20社が集積する。島内での関連産業の生産額は年間25億円に上る。ゼネシスの推計では、こうした企業からの海水利用料などで発電コストを20円前後まで下げられるという。同社は、深層水は食料確保や冷房利用など産業面でも価値のある資源だと強調している。”

100キロワット級の発電設備を安定的に運用し、発電に使った海洋深層水の再利用による産業振興が進む久米島は、世界からも「久米島モデル」として注目を集めている。国際工業開発機構(UNIDO)が太平洋の島国ナウルで海洋エネルギーの導入可能性を調べたリポートでも「Kumejima model」として紹介された。久米島には2013年の実証開始以降、約70ヶ国・地域から1万2000人が視察に訪れている。3月下旬には海洋温度差発電の商用化に向けた課題を話し合う「久米島海洋深層水フォーラム」が久米島で開かれ、全国から企業や行政の関係者、研究者ら116人が集まった。オンラインでも121人の参加があった。”

“島内で消費するエネルギーを2040年までに100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げた久米島町のエネルギービジョンでは、海洋温度差発電では足りない分を保管する電源として太陽光を想定している。島内のガソリンスタンド事業者などが立ち上げた新電力、久米島未来エネルギー(同町)は4月下旬、住居や事務所に太陽光パネルと蓄電池を無償で設置する事業に乗り出した。

設置コストは電力契約や余った電気の売却で回収する。蓄電池を利用することで非常用電源の役割も期待できる。離島は台風の影響で数日間停電することもある。太陽光と蓄電池の導入で再生可能エネルギーの普及と自前のエネルギー確保をともに実現できるという。火力発電に電源を依存する離島は、燃料費高騰の影響を大きく受ける。沖縄電力の2022年3月決算は離島全体の収支が22億円の赤字だった。海洋温度差発電と太陽光発電という再生可能エネルギーによる電気の地産地消(地域マイクログリッド)に道筋がつけば、持続可能な離島社会づくりの一歩となる。

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