号外:「スーパーエルニーニョ」発生か!?

エルニーニョ現象は熱帯太平洋の海面水温が南米沖など東部で平年より高くなる一方、インドネシア近海など西部で低めになる現象で、地球の気温を全体として押し上げます。地球温暖化の影響に、エルニーニョ現象の影響が加わり、夏季の熱波がさらに深刻になることが懸念されています。下記の記事にもありますが、「太平洋全体の海水の循環とそれに連動する熱の蓄積や放出は10年単位の周期変化」ですから、小手先の対策では用をなしません。人間の時間軸(短期)に合わせるのではなく、自然の時間軸(長期)に合わせた対策をとることができなければ、地球環境や気候の不安定化を防ぐことはできません。地球温暖化対策が必要なことは広く認識されていますが、必要な対策を、遅れることなく着実に進めなければなりません。

2023年5月19日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“今年の夏から冬にかけて、異常気象の原因ともなるエルニーニョ現象が約4年ぶりに発生するのが確実となった。それも強力な「スーパーエルニーニョ」になる可能性が高い。エルニーニョは熱帯太平洋の現象だが世界の気象に大きく影響し、地球の気温を全体として押し上げる。近年、温暖化の影響により各地で高温記録が多発しているが、エルニーニョによって夏季の熱波がさらに増える公算が大きい。一方、冬は欧州で平年より寒くなる可能性があり、エネルギー需給逼迫の懸念が強まりそうだ。”

“エルニーニョは熱帯太平洋の海面水温が南米沖など東部で平年より高くなる一方、インドネシア近海など西部で低めになる現象だ。地球を取り巻く大気の流れを変え、猛暑や大雨など極端な現象をもたらす。米海洋大気局(NOAA)の最新のまとめによると、これから7月にかけてエルニーニョが徐々に鮮明となり、11月~2024年1月には強いエルニーニョに発達する可能性が出てきた。”

“気象庁気候情報課によると、熱帯太平洋東部の海洋表層の貯熱量は、データのある1949年以降で最強だった1997年~98年春のエルニーニョ発生時の水準に達しているという。季節の変わり目にあたる春先はエルニーニョの予測は難しく、4月の段階では不確実性が高いとみられていたが、5月の最新の予測で発生・発達の角度は高まった。東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授は「スーパーエルニーニョと言ってよい状態になるだろう」と話す。”

温暖化が進むにつれ、地球の平均気温の上昇傾向がはっきりしてきている。世界気象機関(WMO)によると、2015~22年はデータがそろっている1850年以降で「もっとも高温な8年間」となった。気象機関によってデータの分析法が異なり結果に多少の違いがあるが、2022年は過去5番目または6番目の高さだった。過去最高だったのは2016年で、2014~16年の強いエルニーニョが終わった年にあたる。”

“重要なのは2020年夏以降、一時的に弱まることはありながらも2023年2月ごろまでラニーニャ現象が続いていたことだ。ラニーニャはエルニーニョと逆の現象で、地球全体の気温を低めに抑える効果がある。それがエルニーニョに転じるのだから、今後の気温上昇は顕著になる公算が大きい。温暖化で気温が全体としてかさ上げされているところへ、エルニーニョによる高温が乗っかる格好だ。エルニーニョのピークは冬と予想されるので、気象への影響は2024年によりはっきり表れる可能性がある。”

“こうしたことから、WMOは5月17日に公表した報告書で、2023~27年のいずれかの年に、地球の平均気温が2016年を抜いて過去最高となる確率が98%に達するとの予測を示した。ターラス事務局長はエルニーニョと温暖化の相乗効果で「地球の気温は未知の領域に入る」と警告した。”

“欧州はここ数年、夏場に熱波が頻発している。エルニーニョによって、さらに記録を塗り替えるような猛暑に見舞われる恐れがある。一方、エルニーニョの発生時には、欧州では暖冬になりにくいとされる。ドイツのポツダム気候影響研究所上席科学者のヨーゼフ・ルーデシャー氏によると「どちらかというと寒い冬になりやすい」。例外もありエルニーニョが発生していない年と比べて統計的に有意な差があるとまでは言えないというが、仮に平年並みの気温でも昨冬よりは寒く暖房需要は増すだろう。”

“ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州はロシア産天然ガスへの依存低減に動いた。2022~23年の冬は燃料不足が心配され、備蓄を増やすなどの対策に追われた。一時はエネルギー価格が高騰し、世界経済に波及した。暖冬のおかげで最終的には燃料不足は回避され、エネルギー価格は落ち着きを取り戻した。しかし、今夏に猛暑になればエアコンなどの需要が増し、さらに冬の寒さも厳しくなると今度こそはエネルギー需給の逼迫が深刻化するかもしれない。

“日本に関しては、エルニーニョが発生していると西日本を中心に冷夏になりやすい。ただ、東京大学の山形俊男名誉教授によると、同時にインド洋西部で海面水温が平年より高く東部で低い「正のダイポールモード」が起きれば、冷夏の傾向が打ち消されて暑くなる。海洋研究開発機構アプリケーションラボの最新予測では、これから正のダイポールモードが発生する見通しだ。エルニーニョとの同時発生は2015年以来、8年ぶりとなる。2015年は7月中旬から8月半ばごろまで暑かったが、その後は台風や前線、南からの湿った空気の影響で悪天候となり変化が激しかった。”

不順な天候は太陽光発電を減らし、風力発電にも影響するなど再生可能エネルギーの供給を不安定にする懸念もある。また、エルニーニョの冬は強い寒波の南下が少ないとされるが、北日本を含め全国的に暖房が不要になるほど暖かくなるわけではなく、電力需要が大幅に抑えられるとは限らない。寒暖の大きな変化や豪雨といった極端気象に見舞われるなど、スーパーエルニーニョによって「例年にない天候が起きうると考えた方がよい」(渡部教授)。

“温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度以内にとどめる目標を掲げる。WMOの報告書では、2023~27年の間に、年平均気温が1回でも1.5度を上回る可能性が66%ある。一時的ではあっても警戒すべき水準といえる。太平洋全体の海水の循環とそれに連動する熱の蓄積や放出は10年単位の周期変化が知られ、エルニーニョが起きやすい期間とラニーニャが発生しやすい期間がほぼ交互にやってくる。今回のスーパーエルニーニョを機に、エルニーニョが起きやすい期間が始まるのではないかとの見方もある。そうなれば、しばらく地球の気温上昇が続き、温暖化の抑制は難しさを増す。気候対策上も重要な局面を迎えている。”

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