号外:民間試算、アンモニア混焼で大気汚染拡大懸念

火力発電に使われる石炭や天然ガスの代替燃料として、燃焼してもCO2を発生させない水素やアンモニアを混焼(部分的)や、専焼(100%)することが注目されています。再生可能エネルギーを使って水素を効率よく製造する技術開発(グリーン水素)が続いていますが、水素には貯蔵・運搬に大きな手間とコストがかかるという課題があります。アンモニアを製造するためにも水素が必要です。現在のアンモニア製造工程では化学反応に膨大な熱エネルギー(CO2の排出)が必要で、それを削減するための技術開発が進んでいます。ただ、アンモニアの貯蔵・運搬、安全管理については既に知見があり、液化天然ガス(LNG)の施設を転用できるというメリットもあります。発電分野での脱炭素のために、水素とアンモニアを活用するための技術開発状況については、

アンモニア、脱炭素の伏兵①

アンモニア、脱炭素の伏兵②>の項を参照ください。

どちらか一つということではなく、状況に合わせて適切な代替燃料を選択すればいいのですが、アンモニアの混焼について、気になる情報がありました。

2023年5月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

愛知県碧南火力発電所

フィンランドのシンクタンクCREAは、石炭火力発電所でのアンモニア混焼でPM2.5(微小粒子状物質)とその元になる物質の総排出量が増加するとの報告書をまとめた。混焼する割合を高めるほど増えて「大気環境に致命的な影響を与える」と指摘した。

“日本国内では東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAが石炭火力の碧南発電所(愛知県)でアンモニア混焼の実証実験に着手。アンモニアは燃焼時にCO2を排出せず、環境負荷低減につながるとみている。2023年度に混焼率を20%、2028年度に50%に高める計画だ。”

CREAは碧南発電所の混焼を念頭に、文献やデータを用いて汚染物質の総排出量を試算した。混焼率が0%から20%になると汚染物質は67%増加し、50%だと2.7倍になった。報告書は汚染物質の排出量が増えれば人間の健康に影響を及ぼし、海や陸に蓄積して「環境問題をさらに悪化させる」と指摘した。

日本はエネルギーの安定供給に向けてアンモニア混焼の技術力を高める方針だ。海外には石炭火力の温存につながるといった批判がある。

私がCREAの報告書を読んだわけではありませんが、新聞で取り上げられるぐらいですから、きちんとした根拠があったうえでの懸念を表明しているのだと思います。日本ではこれまでにも大気汚染による健康被害が問題になったことがあります。昭和30年代には三重県四日市市で石油化学コンビナートから排出された大気汚染物質(主として硫黄酸化物)により、近隣住民にぜんそく等の閉塞性肺疾患(四日市ぜんそく)が多発しました。またこのところあまり聞かなくなりましたが、光化学スモッグによる健康被害も発生しました。PM2.5(微小粒子状物質、大気中に浮遊する粒子の大きさが 2.5㎛以下の非常に小さな粒子)については、特に春先に中国から気流に乗ってやってくると、花粉症や黄砂と相まってつらい思いをされる方も多いと思います。その成分には、 炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩のほか、ケイ素、ナトリウム、アルミニウ ムなどの無機元素などが含まれています。

アンモニアを燃やしてもCO2が発生しないといっても、大気汚染が悪化するのでは意味がありません。2023年度に混焼率20%の実証実験がJERAの碧南火力発電所で実施されるわけですから、このような環境へ悪影響を与える懸念についてもきちんと検証し、必要な場合には対策を講じて欲しいと思います。

光化学スモッグ(光化学オキシダント):光化学オキシダントとは、工場や自動車などから大気中に排出された窒素酸化物や揮発性有機化合物が、太陽光との光化学反応により生じる物質の総称で、光化学スモッグの原因物質です。光化学オキシダントが高濃度に発生した場合、目や呼吸器などの粘膜を刺激し、健康被害が発生することがあるため、特に、日差しが強く、気温が高く、風が弱い日には注意が必要です。近年は、工場や自動車で窒素酸化物NOx(NO,NO2)を除去する触媒が使われるようになり、排煙や排気ガス中の窒素NOxが激減し、同様に光化学スモッグの被害も減少しました。

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