号外:浮体式原子力発電所

門外漢の私には技術的な難易度などを評価することはできませんが、海に囲まれた地震国で、国土の制約(平地が少ない)があり再生可能エネルギーの拡大にも苦労する日本が安定的にエネルギーを確保する(エネルギー自給率を上げる)ためには、浮体式原子力発電所は有効なのではないかと思います。海洋資源(水産物など)を守るためにも、その安全性については十分に確認する必要がありますが、検討する価値は十分にあると思います。

2023年5月23日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

海に浮かぶ浮体式原子力発電所の開発プロジェクトに日本企業が参画する。今治造船や尾道造船(神戸市)など13社が英新興企業に約8000万ドル(約100億円)を出資した。浮体式原発は地震の影響を受けにくく、陸上の原発に比べ建設費用も下げることができる。脱炭素で世界的に需要増が見込まれるなか、海外で同プロジェクトの実績を積んだうえで、日本での展開も検討する。”

浮体式原発は海上であればどこにでも設置でき、浮かんでいるために地震の影響を受けにくい。沖合に設置すれば津波にも耐えやすい。作り出した電気は陸上へ送るほか、水素やアンモニアなどの製造に使う。日本企業が出資するのは英新興のコアパワー社。2018年設立で海洋の規制に関するコンサルティングやエンジニアリングを手掛ける。今治や尾道といった造船会社や商社など13社がコアパワーの第三者割当増資を引き受けた。資本金は約1億ドルとなり、日本勢が過半出資することになる。”

“コアパワーは、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資する米テラパワーや電力・ガス事業の米サザン・カンパニー、核燃料サイクルの仏オラノと共同で浮体式原発を開発している。4社の浮体式原発は小型モジュールの原子炉(SMR)の一種である溶融塩高速炉(MCFR)を使う。塩を400度以上過熱して液体にして、ウランを溶け込ませる。溶け込んだウランが核分裂して熱エネルギーを得てタービンを回す仕組みだ。固体燃料を使う従来型の原発で必要な加圧設備が不要となるため、小型化できる。炉心溶融や爆発といった事故を起こすリスクも少ない。4社のMCFRの出力は1基あたり30万キロワットで、3~4基で通常の原発(約100万キロワット)並みとなる。”

浮体式は地震や津波対策といった地形にあわせた特別な構造物が不要で、大部分を工場で大量生産できる。建設費用は陸上の場合の約半分、工期も7割短縮できるという。コアパワーは日本の大型船を造る技術などに着目しており、浮体式の設備部分の開発については日本企業に協力を求めている。2026年にも実証船を投入し、2030~32年には商業化を計画する。海外で実績を積んだうえで、日本でも展開したい考えだ。実証船開発までに約500億円の費用が必要とみられ、コアパワーなど4社で費用を分担する。今回の日本企業の出資金も開発資金に充てる。”

日本は2月に閣議決定したGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針で、次世代革新炉の開発・建設に取り組むとした。SMRや発電効率が高い高速炉などが革新炉の候補だ。世界的なエネルギー危機を背景に原子力発電の持続的利用にかじを切ったが、実際には立地する自治体の同意を得られずに既存原発の再稼働もままならない。地震や津波のリスクを軽減できる点では、浮体式原発は日本では陸上原発よりも優位な可能性がある。海上での原発設置に関する審査や規制など検討すべき課題もある。浮体式原発のための部品を大量生産するサプライチェーン(供給網)の構築なども必要になってくる。”

“コアパワーへの約10億円の出資を決めた尾道造船の幹部は「世界の最新技術の潮流に出遅れないようにしたい」と話す。プロジェクトに参画することでノウハウを獲得したい狙いだ。水素やアンモニアの運搬船など関連需要も大きいだけに日本勢の巻き返しに注目が集まる。”

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