砂漠で育つトウモロコシ(PLA繊維の原料)

日本ではあまり頻繁に食卓に上る食材ではありませんが、トウモロコシは世界三大主食の一つです。あとの二つは小麦と米です。メキシコ料理のトルティーヤ、イタリア料理のポレンタ、ポップコーンにコーンスープなどなど、世界ではとてもポピュラーな食材です。近年では、トウモロコシやサトウキビからバイオエタノールを合成し、非化石資源由来の燃料や化成品の原料として使うことも広がっています。ただ世界人口の増加や、気候変動による干ばつによって農業生産が打撃を受けていることに関係し、脱炭素の一環だとしても、食料生産と競合する形で燃料や化成品原料を生産することに対する批判もあります。またトウモロコシやサトウキビは、植物由来合成樹脂・繊維として期待されているPLA(ポリ乳酸)の原料でもあります。こちらは食料生産との競合を避けるために、植物廃棄物(サトウキビの搾りかす等)や非可食植物からの合成方法が開発されています。そんなトウモロコシですが、厳しい環境下でも生育するように品種改良して、増産につなげようという試みが進んでいます。

2023年6月30日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“イスラエルとヨルダンに囲まれた死海の塩分濃度は通常の海水の約10倍に達する。イスラエルのスタートアップ、プラントアークバイオはそんな苛酷な環境下で生息する微生物から数百万に及ぶ遺伝子を抽出し、干ばつに強い新しい植物を作り出そうと実験を重ねている。「独自の遺伝子発見ツールを使い、植物に新たな能力を与えている。地球が砂漠化しても食料を安定供給できるはずだ」。同社副社長のリモール・ムンドは自信を見せる。インド財閥大手タタ・グループ傘下の農業関連企業と共同で取り組んでいるのが、少ない水でも育つ次世代トウモロコシの開発だ。干ばつに強いだけではない。実証実験段階では少量の水しか与えていなかったのにもかかわらず、通常の環境下で育てたトウモロコシと比べて収量が1.6~3.5倍に増えた。新たな品種は2028年までにインドで販売を始める計画で「農作物の真の革命が起こる」とムンドは鼻息が荒い。”

“地球の平均気温はこのまま気候変動対策を講じなければ、21世紀末には約4度上昇すると言われている。CO2濃度の上昇が農作物の育成にはプラスに働く一方、水面上昇や干ばつ拡大、砂漠化による農地の縮小、集中豪雨などの異常気象は先鋭化する一方だ。米マッキンゼー・アンド・カンパニーは2050年に小麦や米などの穀物、トウモロコシの世界収量が1割以上減る確率が年6%から18%に上昇すると試算する。雨が少なく、暑くても成長する植物の登場が待たれる。

災害や害虫への耐性を高めた「ハイブリッド小麦」の開発を進めてきたドイツ化学大手BASF。「生産者の要求水準を満たすことが難しい」として、北米での販売計画が難航していることが明らかになった。既存の常識を覆すような品種の開発は一筋縄ではいかない。医薬・農薬大手の独バイエルは2018年、種子・農薬大手の米モンサントを7兆円以上で買収。代わって害虫駆除剤・除草剤事業を売却した。6月に就任した最高経営責任者(CEO)のビル・アンダーソンは「進化を加速させる」と新たな種子開発事業のスピンアウトも検討する。”

農薬で守るのではなく、品種改良で環境変化に耐えうる強い植物に変える。避けられない気候変動が農業にも進化を促す。

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