官民共創を成功に導く「グリーンオーシャン」という考え方②、「フューチャーセンター」

「グリーンオーシャン」でのビジネスを創造するという考え方の続きです。社会課題を解決する技術・サービスを社会実装していくためには、ビジネスとして成立し、継続して運営していくことが必要です。しかし従来の企業・市場・顧客という枠組みの中だけでは困難なケースがあります。その困難を克服し、必要とされる新しいビジネスを立ち上げるひとつのアプローチとして、官民共創は有効な考え方です。

“グリーンオーシャンで自治体と企業を結び付けるハブの役割を果たす仕組みがフューチャーセンターである。企業は社会課題の解決に関心があっても、なかなか自治体といい関係が築けない。自治体は社会課題を解決したいのに財源が確保できず、公平性の観点から特定の企業にはアプローチをかけにくい。社会課題の解決という共通の興味があるのに、自治体と企業はうまく出会うことができないのが実情だ。フューチャーセンターは、こうした現状を打破するために生まれた。特に欧州で盛んな取り組みで、英国やオランダ、デンマークなどが代表的な例だ。国土が狭く、天然資源に乏しい北欧で豊富な知的資源を活用して未来を創出するというコンセプトを打ち出し、産業競争力を国内外にアピールしようとしたことが起源といわれている。

“フューチャーセンターの特徴は、行政と企業がフラットに対話できる環境を整える点にある。行政と企業、金融機関が一緒になって様々な社会課題を共有し、解決に向けたプロジェクトを組成する。プロジェクトの資金は、行政の予算の場合も、企業による新規事業の開発投資の場合もある。金融機関が入っているのは、プロジェクトをファイナンス面で支援するためだ。事業性と公益性、ソーシャルインパクトのバランスを見ながら、どういう資金でプロジェクトを回していくのかを決めることが、フューチャーセンターの活動の肝となっている。

“欧州で取り組みが盛んな理由は、欧州が一足早く成熟社会へ突入したことと無関係ではない。様々な知的リソースを総合的に活用して複雑化・高度化する社会課題を解決し、社会のニーズに応えていく。この知的資本経営についての議論が1990年代半ばから活発になっていた。その議論の中から、企業と政府、自治体などの幅広いステークホルダー(利害関係者)が中長期的な社会課題の解決を目的にフューチャーセンターを構築した。創造的かつ協調的な対話を通じて、新たなアイディアや問題解決の手段を見つけ出し、その実現に向けて相互協力を促す取り組みを進めるためだ。”

“最初のフューチャーセンターは、スウェーデンのスカンディア保険グループによるもので、その後に英国やオランダ、デンマークなど各国に広がる過程で欧州では公共セクターによる運営が主流となっている。デンマークの政府関係者に、フューチャーセンターと、日本の談合をイメージして「行政と企業が同じテーブルに座って、これから始める新しいことをディスカッションするのは公平ではないという批判は出ないか?」と聞いたことがある。社会課題を題材に行政と企業が意見を交わし、新しいプロジェクトを生み出す仕組みは素晴らしいと思ったものの、議論のテーブルに着くことができない企業から「アンフェアだ」とクレームが出ないのだろうか、という素朴な疑問からだ。この問いに対する回答は「テーブルの存在はオープンにしているし、議論についても議事録などで公開している。設定された社会課題に関心があれば、そのテーブルに参加すればいいだけだ。チャンスはどの企業に対しても等しく開かれている」というものだった。これが欧州での公平・平等ということだ。”

他の国でできていることが、日本でできないわけがないだろう。欧州も昔からフューチャーセンターの仕組みがあったわけではない。社会が成熟し、人々のニーズの多様化と社会課題の複雑化に直面したことからフューチャーセンターの取り組みが始まっている。日本と同様に官と民のコラボレーションの必要性が高まったから必然的に生まれた取り組みだったわけだ。もちろん、政治や行政はその国の文化や歴史が色濃く反映されるため、欧州の仕組みをそのまま導入しただけではうまくいかないだろう。だが、本質部分は万国共通のはずだ。公共を担当するのは行政、経済活動は企業と明確な役割分担で日本社会は構築されてきた。このため、両者のコミュニケーションは驚くほど少ない。今後行政と企業による相互理解が進むことで、フューチャーセンターのような取り組みへの理解も深まっていくだろう。

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