号外:世界の水不足、物流・食料に波及

幸いなことに日本は水資源が豊かな国です。台風や集中豪雨による水害や、地域によって降水量が少なく渇水するなど、水に関するトラブルが発生することもありますが、慢性的に水不足に悩むことはありません。しかし世界各地では、熱波や干ばつといった気候変動の影響で水不足が深刻化し、様々な困難に直面している地域があります。

2023年8月19日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

パナマ運河

気候変動による水不足が世界のビジネスの足かせになっている。運河や河川の水位が下がり、輸送の遅れや物流コストの上昇につながっている。干ばつで穀物などの不作が相次ぎ、オリーブ油は最高値を付けた。世界の慢性的な水不足は今後も続き、経済活動への影響が一段と広がるとの指摘がある。

現在、大西洋と太平洋を結ぶ海上輸送の要所のパナマ運河で、130隻もの船が通航待ちをしている。運河に水を供給する湖の水位が7月下旬に2016年以来の低水準にまで落ち込み、運河の水が不足しているためだ。パナマ運河は仕組み上、通航のたびに水が海に流れ出る。節水のため、1日に通航できる船の数を32隻と通常から1割超減らしている。通航待ちの船が渋滞を起こしている。運河の水位も低く、船が沈む深さの制限も実施している。大型のコンテナ船などは重量を減らす必要があり、重量制限で「積み切れない荷物も発生している」(大手コンテナ船社)ため、貨物船の需要は高まる。8月第2週時点に、中国の上海発米国の東岸向けのスポット(随時契約)運賃が3月末比5割超も上昇している一因は、パナマ運河の通航制限にあるとされる。パナマ運河庁は「(水不足の)深刻さは前例がない」と話す。”

ドイツの国内物流の大動脈であるライン川も、水位低下による物流の目詰まりが懸念されている。2022年夏にドイツ西部のカウプ周辺の水位が30センチメートル台まで低下し、原料や製品などの輸送が滞った。ドイツ銀行によると、ライン川の水位が135センチメートルを下回ると大型コンテナ船は貨物量を半分まで、75センチメートルを下回ると3割まで減らす必要があるという。2022年8月のドイツ国内の貨物輸送量は2021年同月比27%減った。2023年も水位が6月半ばに130センチメートルを下回り、7月には100センチメートルを切る場面があった。”

世界では降雨不足や熱波による干ばつも深刻で、作物が育ちにくく食料価格が高騰している。その一つがオリーブオイルだ。国際通貨基金(IMF)が算出するオリーブオイルの価格指数は今春以降、最高値を更新し続けている。世界生産の約4割を占めるスペインで昨年以降、干ばつで原材料のオリーブの収穫量が減少している。欧州委員会によると、スペイン産のエキストラバージンオイルの7月中旬時点の価格は100キログラムあたり約750ユーロ(約12万円)と前年比2倍超に上昇した。価格高騰を受けて日清オイリオグループ、J-オイルミルズ、昭和産業などの国内の大手食用油メーカーは相次ぎ今年10月出荷分からオリーブオイルの値上げを決めた。

コメの作況も悪化している。干ばつで米国では中・短粒種の2022年産の生産量が前年比3割減った。現地の商社関係者によると、主産地のカリフォルニア産の取引価格は平年と比べ6割高くなった。米農務省(USDA)は南米沿岸などの海水温が上昇する「エルニーニョ現象」に伴う降雨不足で、タイの2023~24年度産の生産量が前年度から2.5%減る見通しを示す。作付けの遅れや病害で収穫量がさらに落ち込む懸念もあるという。思わぬ恩恵を受けているのが日本産のコメだ。米国では高くなった米国産コメの代替として需要が高まっている。従来の日本産は高級品扱いで割高だったが、国内大手コメ卸の担当者は「日本産と米国産との価格差が縮まり、引き合いが強まっている。一部の店舗では、米国産が日本産を上回っている」と指摘する。”

“米シンクタンク、世界資源研究所(WRI)によると、世界人口の半分の約40億人が年に1ヶ月、干ばつや洪水など水に関わる被害を受ける環境にあり、気候変動によって影響を受ける人数は今後さらに増加するという。2050年には国内総生産(GDP)で70兆ドル(約1京円)が影響を受ける可能性もあるという。”

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