号外:コメ高騰で食料不安再び、自国優先と異常気象の影響

私たちが生きていくために、水と食料はどうしても必要なものです。ウクライナ危機でロシアとウクライナからの小麦輸出が滞り、国際価格が高騰して世界的な食料不安への懸念が高まりました。このところ状況は少し落ち着いているようですが、今度はインドのコメ輸出制限をきっかけにコメの価格が高騰しています。どちらの場合も、直接的なきっかけとは別に気候変動による干ばつや水害の影響が背景にあります。コメは私たち日本人にとっては主食で、ほぼ100%自給しています。このため国際市場からは切り離されていて、現在のコメ価格高騰による国内コメ需給への影響はないようです。下記の記事にもありますが、コメの国際取引は「Thin Market(薄い市場)」と言われています。コメは生産各国での自給自足が定着していて、世界生産量に占める輸出量の割合が小麦に比べて低いからです。世界で起きる様々な出来事が、食料の生産と流通に影響を与えます。日本は食料自給率が低い国ですから、場合によってはその影響を強く受けることになります。国内の一次産業(農業、畜産業、漁業、林業)のあり方を良く考え、食料を確保するための議論を深めていく必要があります。

2023年9月11日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

インドの田植え

コメの国際価格が急上昇し、世界的な食料不安への懸念が再び広がっている。小麦の代替需要が増えるなか、最大の輸出国インドがコメ輸出を禁止したのがきっかけだ。コメはアジアを中心に数十億人が主食とする。各国が国内での安定確保に走り、それが国際市場でのコメ価格の高騰を招いている。国際食糧農業機関(FAO)が9月8日に発表した今年8月のコメの国際価格指数(2014~16年=100)は142.2となり、前月の129.7から一気に9.8%上昇した。前年同月では31.2%の大幅な上昇で、2008年以来15年ぶりの高水準となった。FAOは「インドの輸出禁止による貿易の混乱を反映しており、輸出禁止の期間が不透明なうえ、他の品種にも規制が拡大されるとの懸念から、サプライチェーン(供給網)上で在庫を抱え込んだりする動きが見られる」と分析した。”

“ロシアのウクライナ侵攻以降もコメの国際価格は落ち着いていた。ウクライナ産の小麦やトウモロコシの輸出減への懸念から穀物価格指数は侵攻前に比べて一時23%も上昇したが、紛争地域外で生産されるコメは110前後で安定していた。流れが変わったのは今年に入ってから。小麦の高騰によりパスタやパン類の代わりにコメを消費する動きがフィリピンなどで広がったためだ。国際価格が上昇すれば、生産国には輸出ドライブがかかる。これに対してインドは7月20日に高級品のバスマティ米を除くコメの輸出禁止を発表した。消費者問題・食料・公共配給省は、4~6月の非バスマティ米の輸出量が前年同期比35%の急激な増加になったとしたうえで、輸出禁止は「国内でのコメ価格の上昇を和らげ、十分な供給量を確保するため」と説明している。

インドが自国優先に傾いた背景には異常気象への懸念がある。インドでは6~9月が大規模季節風モンスーンによる雨期にあたり、農業生産に必要な雨の約7割がもたらされる。今年は7月から8月初めに大雨や洪水が発生して農作物が大きな被害を受けたが、9月にかけては南米ペルー沖の海面水温が上昇する「エルニィーニョ現象」の影響で降雨不足が見込まれている。三井物産戦略研究所は「コメの不作が確定したわけではなく、先手を打って輸出禁止を決めたと考えられる。農作物全体の価格が上昇するなか2024年春には総選挙を控えており、コメの輸出規制は長引くのではないか」と指摘する。”

インドは国際市場で取引されるコメの約40%を供給する輸出大国だ。2022年の輸出量は2212万トンと、第2位のタイ(768万トン)と第3位のベトナム(705万トン)を合わせたよりも大きい。輸出先は140ヶ国に上る。米農務省(USDA)はインドによる非バスマティ米の輸出禁止で、2023年の世界全体のコメ輸出量は5380万トンと前年比で4.2%減少すると予測する。9月7日、ベトナム政府はコメの国際取引に関してフィリピンと政府間協定を結ぶと発表した。コメの国際市場では「輸出量の減少に直面した輸入業者の急な買い入れ」(USDA)が広がっており、フィリピンなど輸入国は安定確保の道を探るのに必死だ。

輸出国のベトナムにも悩みがある。国営メディアによると、グエン・ホン・ジエン商工相は国際価格の上昇を「コメの生産と輸出を拡大する好機だ」ととらえながらも、輸出業者には「国内での価格高騰と供給不足は容認できない」とクギを刺す。コメは主食であるだけに自国内での安定供給が最優先なのだ。ミャンマーは8月25日、国内のコメ価格の上昇を抑えるため、45日間のコメ輸出の停止を発表した。輸出規制を取っていないタイではすでに国内の流通量が逼迫し、数週間前に比べて価格が2割近くはね上がった。エルニーニョ現象で降雨不足が見込まれるのは東南アジアも同じで、実際に収穫量が減少すれば、さらに混乱が広がりかねない。

コメの国際取引は「Thin Market(薄い市場)」といわれる特殊性がある。世界生産量に占める輸出量の割合は小麦の27%に対してコメは11%にとどまる。コメは自給自足が定着しており、インドでさえ輸出にまわしているのは生産量の17%にすぎない。日本は自給率がほぼ100%で、義務的輸入量(ミニマムアクセス)などを除けば、国際市場から切り離されているといえる。ウクライナ侵攻で同国産の小麦などの輸出減が世界的な食料不安を招いたが、小麦はグローバルに取引されているため、欧州連合(EU)などの供給がそれをカバーした。コメは代替が利きにくく、エルニーニョ現象が今後の収穫量に悪影響を及ぼすと、食料不安は第2幕に入りかねない。

中国の大雨と洪水

中国がどう動くかが波乱要因となる。コメやトウモロコシを生産する「穀倉地帯」の北東部は7月下旬から8月上旬の豪雨と洪水で大きな被害を受けた。中国はコメの生産量でも消費量でも世界トップ。2022年の純輸入(輸出入の差し引き)は約400万トンだったが、輸入拡大に動くことになれば、規模が大きいだけに、コメの国際価格をさらに押し上げる可能性がある。

コメ高騰で最も打撃を受けるのはサハラ砂漠以南のサブサハラアフリカだろう。ナイジェリアやコートジボアールなど西アフリカを中心に、2022年には国際取引されるコメの31%にあたる1710万トンを輸入した。もともとカカオや果物などに生産が偏り、主食である小麦や米を輸入に依存していたうえ、対ドルでの通貨安が進んでいるために食料価格がはね上がっている。食料生産はいまだに天候頼み。特に低緯度のコメの生産地域は気候変動の影響が大きいとされる。ウクライナ侵攻に端を発し、ピークを過ぎたかと思われていた世界的な食料不安は、次第に構造問題の様相を呈しつつある。”

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