EU、曖昧な「環境に優しい」を禁止

私たちは環境負荷の少ない商品やサービスを選択して消費し、環境保全に貢献したいと考えます。しかし、どの商品やサービスが環境負荷の低減に貢献しているのかを知ることは簡単ではありません。通常は商品のメーカーやサービスを提供する業者の説明(宣伝広告)を信用して判断することになります。ところが、巷にあふれる環境貢献のメーッセージの中には、その程度や範囲あるいは根拠が不明確ないしは不十分なものが含まれているようです。そもそも「環境に貢献する」ということの定義自体があまり明確になっていないようにも思われます。EUは、曖昧なエコ表示や宣伝を禁止する規制に乗り出します。消費者が環境に配慮した商品やサービスを選択するために必要な情報を入手し、不公正な商慣行(宣伝広告等)から保護されることを目指した政策です。

2023年10月11日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

欧州連合(EU)は「環境に優しい」や「カーボンニュートラル」といった曖昧なエコ表示や宣伝を禁止する。企業が環境に配慮したふりをするグリーンウォッシングから消費者を保護するためだ。記録的な猛暑などの気候変動が広がるなか、企業の環境対応に実効性があるかどうかが問われている。EUの欧州議会は11月にも企業の曖昧なエコ表示を禁止する規制案を採決する。この「グリーン移行のために消費者に権限を与える指令案」をめぐっては、立法権限を持つ欧州議会と閣僚理事会、執行機関である欧州委員会が9月19日の3機関協議(トリローグ)で政治合意しており、承認されるのはほぼ確実だ。

“発効後、EU加盟国は24ヶ月以内に新規制を法律に組み込む必要があり、2026年までに曖昧なエコ表示や宣伝は禁止される。EUの消費者向けに環境対応をうたう外国企業も規制の対象となる。EU議長国スペインのガルソン消費相は声明で「消費者は環境に配慮した商品を選択するための必要な情報を入手でき、グリーンウォッシングなどの不公正な商慣行から保護されるようになる」と強調する。EU3機関の合意文書によると、優れた環境パフォーマンスが証明されない限り、「環境に優しい」「ナチュラル」「エコ」「カーボンニュートラル」といった一般的な表示は使えなくなる。新たな規制は現行の不公正商慣行指令(UCPD)を実質的に改正し、正確で科学的な根拠を示さぬままに環境対応をうたうマーケティングに歯止めをかける狙いがある。”

“注目されるのはカーボンオフセットを使い、製品やサービスの環境負荷が中立または低いとうたう表示を禁止することだろう。カーボンオフセットは森林整備などの環境事業に拠出し、その代わりに温暖化ガス排出量を相殺する仕組み。欧米ではカーボンオフセットの透明性には疑問があり、それを根拠としたエコ表示や宣伝は企業が温暖化ガスを排出していないとの誤解を消費者に与えるとの批判が強い。EUの新たな規制はかなり踏み込んだ内容といえる。”

“欧州委員会は今年3月、エコ表示のルールや共通基準の導入を盛り込んだ「環境訴求(グリーン・クレーム)指令案」を公表した。たとえば「パッケージには再生プラスティックを30%使用」「環境フットプリントを20%削減」などと表示する場合、企業は科学的な根拠を示して立証する責任があると規定する。この指令案も欧州議会などで審議が進んでおり、ややこしい。EU関係者は「2つの指令は補完関係にある。グリーン移行のための指令は幅広い規制や禁止事項を定める一般法(Lex Generalis)で、環境訴求指令は詳細を規定する特別法(Lex Specialis)と位置付けている」と話す。欧州委員会の調査によると、企業のエコ表示や宣伝の53%は曖昧で誤解を招く恐れがあり、40%は裏付けになる証拠がない。グリーンラベルの半数は検証が弱いか存在しないという。曖昧なエコ表示が氾濫するなか、環境意識の高い消費者ほど誤認しやすい傾向にあり、EUは規制を大幅に強める。

KLMの広告

欧米では企業の環境対応アピールへの視線が厳しく、環境団体や監視機関からの批判が相次いでいる。KLMオランダ航空の「Fly Responsibly(責任ある飛行)」という広告をめぐっては環境団体が2022年にグリーンウォッシングにあたると提訴し、法廷闘争が続く。欧州最大の格安航空(LCC)ライアンエアーが広告に使った「Europe’s Lowest Fares, Lowest Emission Airline(欧州で最も安く、最も排出量が少ない航空会社)」という表現については、英国の広告基準評議会(ASA)が最も排出量が少ないと主張するには根拠が不十分で誤解を招くと判断し、2020年に広告の使用を禁止している。”

“英フィデリティ・インターナショナルでサステナブル投資戦略責任者を務めるガブリエル・ウィルソンオットー氏は「環境対応は非常に範囲が広く、判断が分かれやすい。グリーンウォッシングではどこまでが意見の相違で、どこからが重大な虚偽表示か、経済的成果を得るための事実の誇張なのかを客観的に見極めるのが難しい。フィデリティはコミュニケーションの一貫性や透明性、バランスが重要と考え、環境訴求の根拠を明確にするように取り組んでいる」と話す。欧米での規制強化の動きには「持続可能性は世界的なトレンドになっている。関連する商品やサービスには消費者の需要があるし、同時により進んだ規制が求められている。基準や制度が次第に強化されることはポジティブにとらえている」と指摘する。”

どのように環境対応をうたうとグリーンウォッシングに該当するのか。米国の第三者機関、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)は7つの典型例を挙げる。そのひとつがトレードオフ(相反)隠蔽。環境に関わる重大な問題に配慮せず、狭い範囲の特性に焦点を当てる環境対応を指す。プラスティックごみを減らすために紙ストローや紙袋を使用して環境対応を強調する動きがあるが、紙ストローなどの製造時には高温での加熱や大量の水が必要であることが十分に開示されていないと指摘されている。アイルランド広告基準評議会(ASAI)は2022年に、英ジャガー・ランドローバーの多目的スポーツ車(SUV)の広告を差し止めた。ランドローバーの広告は、燃料の使用量を減らす技術が「より環境に配慮する生活を送るための変化を起こしている」とアピールしたが、大型のSUVに乗ることが持続可能性を主張する正当な根拠がないと判断した。ULが提示する「2つの環境負荷のうちマシなほうを宣伝する」グリーンウォッシングに該当するといわれる。”

“環境問題への関心が高まるなか、自社の取り組みを消費者に伝えたいが、グリーンウォッシングと批判されるのは避けたいというジレンマを企業は抱える。欧米では環境対応にあえて口をつぐむ「グリーンハッシング」を選ぶ企業も増えている。ハッシング(hushing)は沈黙を求める「しー」という音のことだ。日本総合研究所の佐々木努主席研究員は「日本企業では環境対応をアピールしたい部署とコストをかけて科学的根拠のある数値を示すのに消極的な部署との綱引きがあり、結果的に『環境に優しい』など一般的な表現や宣伝に落ち着くケースが多い」と指摘する。そのうえで「商品を売るためだけに環境対応をうたうのではなく、消費者に持続可能性について学んでもらい、意識や行動を変えるきっかけを作るエコ表示や宣伝もあるのではないか」と語り、環境ラベルの積極的活用を訴える。”

EUが新規制を導入すれば、日本でも曖昧なエコ表示への視線は確実に厳しくなるだろう。だが必要以上に委縮してグリーンハッシングに走っては大きな流れから取り残されてしまう。自社の現状を正しく伝え、環境対応の目標を明示しながら、その進捗を丁寧に説明する地道な取り組みこそが持続可能な社会への道を開く。

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