号外:農家が8割減る日、主食はイモ?

私たちは毎日食事をします。生きるために必要な栄養分を補給し、家族や友人と食事することで楽しい時間を過ごし、やすらぎや幸せを感じてもいます。このHPでも度々取り上げてきましたが、日本のカロリーベースの食料自給率は40%を割り込んでいます。下記の記事で示されているように、国内の農業は衰退しつつあります。その内容には愕然とさせられます。気候変動や地政学的リスクなど、色々な要因で世界では食料不安が懸念されています。世界の人口は増え続けています。日本が必要とする食料を、今までのように、そしてこれからも輸入に頼って調達できると楽観することには大きな疑念があります。国内で食料を確保すること(農業、畜産業、漁業)について、もっと真剣に考えて、今すぐに対応策を実施していかないと手遅れになってしまいます。

2023年9月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

食卓から国産の農作物が消えていく。民間の推計では2050年、国内の農業人口が現状より8割も減る。生産は激減。必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれない。世界で人口が増える中、輸入頼みを続けられるか。飽食の意識を変える必要がある。”

“山形県飯豊町の舩山文利さん(76)は2022年秋の収穫を最後に離農した。約300年にわたってコメ作りをしてきた家系。約3.5ヘクタールの田を耕してきた。体力に限界を感じていた同年8月、東北や北陸などを豪雨が襲う。収穫量は減り、農作機械も故障した。「続けていく気力も奪われた」。娘は別の職に就いており、後継ぎはいない。田の大半を放置していたが、近隣で借り手が何とか見つかった。”

舩山さんの休耕田

“国内の農家数は農業法人も含め2023年2月で92万9千戸。高齢化は著しい。農林水産省によると、自営での農業従事者の平均年齢は2022年時点で68.4歳で、86%を65歳以上が占める。このままでは離農が急速に進む。三菱総合研究所は農家数が2050年に17万7千戸になると推計する。現在に比べて実に81%も減る。その間の人口は16%減の見込み。「胃袋」に比べ、農家の減少は急激だ。

“食卓を彩る国産農作物が減ってしまうかもしれない。2016~21年の収穫量の減少がそのまま続くと仮定すると、ホウレンソウは2049年には生産がゼロに、ダイコンは2050年に半減する。果物ではサクランボや日本ナシが生産できない。主食のコメはどうか。三菱総研によると、2050年には291万トンに。2022年比で56%減少し、需要に対して約100万トンも下回るという。日本は現状でも食料を輸入に依存している。直近の食料自給率はカロリーベースで38%。米国は110%、ドイツは80%をそれぞれ超えるなど、日本は主要7ヶ国(G7)で最も低い。ウクライナ危機で穀物は値上がりし、世界の争奪戦は激しい。円安も重なり調達コストも上がった。その中でさらに輸入に頼れるかは分からない。ほぼ100%を輸入に頼る肥料の原料も確保が難しくなっている。

どうすれば胃袋を満たせるのだろう。農水省は1人当たり1日2169キロカロリーの摂取が必要と推定する。8月公表の試算では、現在のコメや小麦中心の作付けで可能な限り生産量を増やしても、1720キロカロリーしか得られないとした。一方、イモ類中心の作付けなら国内生産のみで2368キロカロリーになると試算。輸入に頼らずとも賄える。イモは生育に比較的手間がかからないとされ、カロリーも高い。戦中・戦後の食糧難の時代は貴重な栄養源だった。同省が想定する献立を試してみた。朝食は焼きイモ2本と食パン1枚、サラダ2皿と果物。かなり満腹だ。昼食は焼きイモ2本と粉ふきイモ1皿、野菜いため2皿。空腹を感じていなかったものの完食できた。夕食はごはん一杯に粉ふきイモ1皿と漬物、焼き魚。どうにもイモには箸がのびない。この献立は3日目の昼食までが限界だった。必要なカロリーを満たすための献立で、農水省も「あくまでも極端な仮定」と説明する。確かにおなかは満たされるのだが・・・。”

政府は将来的に食料を確保できるよう、農政の基本理念や政策の方向性を示す食料・農業・農村基本法の見直しを進めている。5月に公表した中間とりまとめでは効率的な農業経営の推進や、農家が持続的に作物を生産できる価格への引き上げなどを掲げた。効率化へ期待されるのが農業技術の進展だ。クボタは2024年1月に人工知能(AI)付きのカメラなどを搭載したコンバインを発売する。障害物を検知すると自動で停止し、作物の高さなども学習して自動で収穫ルートを最適化する。”

“ベンチャー企業のスプレッド(京都市)は2024年、中部電力などと静岡県袋井市で1日10トンを生産する世界最大規模のレタス工場を稼働させる計画だ。人口光などを使って栽培工程のほとんどを自動化する。これらの技術進展だけで間に合うか。日本国内では、まだ食べられるのに廃棄される食品が年間523万トン発生する。1人当たりに換算すると、茶わん約1杯分の食べ物が毎日捨てられていることになる。飽食の時代は終わりに近づいている。食の未来を守るには食材の無駄をなくし、農業が存続できる価格への理解を深めるなど、身近な行動の積み重ねも必要となる。

<鈴木宣弘:東京大教授(農業経済学)>

世界の人口は増えていき、食料不足が大きな課題となっている。中国は14億人を1年半食べさせるだけの備蓄を確保しようと、世界中から食料を買い集めている。対する日本は1ヶ月半の備蓄しかない。政府は2030年度に食料自給率を45%に高める目標を掲げるが、今のままでは下がっていく。これまでも5年ごとに目標値を設定しているが、工程表すら作ったことがない。農家の平均年齢は70歳近くになっており、あと10年もすれば多くの農村は崩壊する。これまで日本は、農業の将来にあまり目を向けずに工業化を推進してきた。その結果、食料は海外に依存するようになってしまった。今回の食料・農業・農村基本法の改正では、農家が減って輸入も難しくなるため、食料安全保障の確保へ抜本的な策を打ち出すと思った。だが、自給率をこれまでよりも軽視しているような内容にみえる。改正案で示した農業法人のさらなる効率的な生産などは必要かもしれない。だが米国やオーストラリアのような広大な農地は少なく、効率化は現実的ではない。例えば、他の仕事をしながら農業にも携わるような「半農」の形態を増やすということも必要だろう。極端に言えば、自分たちで食材を作るしかない。農家が地域住民に農作業を教え、耕作放棄地も使って身近な地域で生産から消費までの循環型の仕組みをつくり上げる。そうした意識を国民が持つ必要がある。 

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