号外:EV束ねて電力調整、再生可能エネルギーの無駄を省く

太陽光や風力といった再生可能エネルギー発電では、天候や時間帯によって発電量にばらつきがあります。また電力需要にも時期や時間帯によってばらつきがあります。電力は需給量をバランスさせないと電力系統に負荷がかかり、最悪の場合は広範囲での停電(ブラックアウト)を引き起こしてしまいます。したがって需要に合わせて発電量を調整する必要がありますが、天候や時間帯によっては余剰な電力が無駄になる場合や、供給が逼迫して節電要請しなければならない場合が出てきます。あるいは蓄電池のようなバッファー機能を活用して需給量を調整する方法もあります。また再生可能エネルギー発電の場合、設備を設置する適地(地方)と実際の需要地(都市部)間の送電インフラが十分でないといった課題もあります。せっかく発電した電気を無駄なく使うための工夫なのですが、下記にご紹介するような方法もあるのだなあと、ちょっと感心してしまいました。

2023年10月11日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

ホンダと三菱商事

ホンダは三菱商事と組み、電気自動車(EV)を使った電力インフラ事業に参入する。電力会社の送電網に複数のEVをつなぎ、余った電力をためる蓄電池として活用する。再生可能エネルギーの需給を調整するのが目的だ。EVが分散型電源となり電力の需給バランスを安定化させ、再生可能エネルギーを効率よく利用する仕組みにつなげる。両社はEVに関連する新事業の創出に向けた協議を始め、2024年にも共同出資会社を設立する調整に入った。EV向け電池を使ったエネルギーマネジメント事業など幅広い分野での協業を検討しているもようだ。”

“両社は第1弾として2024年に発売するホンダの軽EV「N-VAN e:」に搭載されている電池の活用を念頭に置いている。使用済みの電池を回収し、電力系統用蓄電池として再利用することを想定する。電池にはモニタリングの機能を組み込み、充放電の履歴や使用のデータを蓄積できるようにする。さらに、2026年度にはEVを売電に使えるようにする。EVのような小さな電源が需給調整に参加できるよう、政府は規制を緩和する方針だ。両社の連携にはこれをにらみ先手を打つ意味合いもある。”

EVを再エネ電力の調整弁に

EVを送電網につなぎ電力を融通する仕組みは「V2G(ビークル・ツー・グリッド)」と呼ぶ。EVの利用者が、電気代が安く再生可能エネルギーが余る時間帯に充電し、需給が逼迫する夕方に電力会社へ売電する内容で、欧米などでは実証実験が進んでいる。両社は2026年度以降に国内でもV2Gが広がるとみている。EVの所有者は送電網に接続して余った電力を売ることで収入源にできるため、EV購入時の負担感を抑える効果も期待しているという。一般的にEV1台あたりの蓄電量は20~100キロワット時が中心だ。EV100台を高性能な普通充電器を通じて需給調整市場につなげば、単純計算で30分で最大500キロワット時(約40世帯が1日に消費する電力量)を調整できる。”

EVは充放電を繰り返すことで電池容量が減り、満充電あたりの走行距離が短くなるが、系統用の蓄電池であれば十分に活用できる性能を持つ。両社はEVを充電プラグに刺したままにし、電力需給に合わせて充放電する「スマート充電」を事業化し、日本の電力供給網の安定化につなげる。日本の送電網は容量が逼迫し、再生可能エネルギーの電力損失が拡大している。九州管内では2023年度、一般家庭約17万世帯の年間消費電力に相当する約7億4000万キロワット時の出力調整が見込まれる。政府は送電網の増強に6兆~7兆円投じる方針だが、全国の整備には時間がかかる。再生可能エネルギーの有効活用には蓄電池の機能を持った分散型電源を最大限に活用することが欠かせない。

両社は将来的には電池から希少金属(レアメタル)まで取り出すリサイクルの事業化も検討するようだ。調査会社アライド・マーケット・リサーチによると、V2Gの世界市場は2031年に2021年比8.7倍の150億3000万ドル(約2兆2000億円)に拡大する見通し。V2Gを巡っては、トヨタ自動車が米オンコー・エレクトリック・デリバリーと組んだ。米テスラは日本や米西部カリフォルニア州などで蓄電池を一括制御する事業を始めた。”

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