アパレル企業に広がる古着販売

アパレル企業が自社ブランドの古着を販売する取り組みについての話題です。街の古着屋さんやフリーマーケットアプリのメルカリなどでの流通ではなく、アパレル企業自身が古着販売を手掛ける目的は、大量廃棄などで環境負荷が高いと言われている衣料品ビジネスにおけるサステイナビリティ(持続可能性)への対応なのですが、販売する古着の品質へのこだわりもあり、簡単な話ではないようです。

2024年1月15日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事(日経ビジネスからの転載)より、

ユニクロは2023年10月11日~22日、東京・渋谷のユニクロ原宿店内に古着の期間限定ストアを開いた。同社が古着を販売するのは初めてのこと。店頭で回収したユニクロの服を染め加工してリメークしたり、毛玉などを取り除き洗浄したりして販売した。セーターやフリース、カシミヤニットなどが常時、売り場に400~500点並んだ。期間限定店は消費者の反応をみるための検証の手段であり、今後の展開はまだ検討中だ。親会社ファーストリテイリングの柳井康治取締役は「すぐに事業化する段階ではない」としつつも、「クオリティーと値段が釣り合っているという声が多かった」と手応えを語った。”

ファーストリテイリングは2030年までに、商品の原材料生産・素材生産・縫製に関わる温暖化ガス排出量を2019年度比で20%削減する目標を掲げ、リユースやリサイクルの取り組みを進めてきた。2020年には消費者から不要になった衣類を回収し、新たな商品にする「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」を開始。回収したダウンでつくった「リサイクルダウンジャケット」の販売や、持ち込んだ服を刺しゅうや刺し子でリペア・リメークできる「リ・ユニクロスタジオ」を展開する。リ・ユニクロスタジオは2022年9月に英ロンドンの店から始まり、国内では2023年4月にユニクロ前橋南インター店で初めて本格導入された。”

”世界のアパレル業界では、売上高2位であるスウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)や米アウトドア用品大手のパタゴニア、急成長しているカナダのスポーツ用品大手ルルレモン・アスレティカなどが、続々と古着販売を開始している。古着を回収して新たな衣料品にリサイクルしたり、寄付したりする活動はこれまでもあった。近年、古着として本格的に販売するようになってきた背景には、衣料品の大量廃棄が世界的な問題となり、サステイナビリティの観点からさらなる対策に迫られていることがある。加えてリユース市場の拡大もあるだろう。日本でもフリーマーケットアプリのメルカリが普及し、古着や中古品に対する消費者の抵抗感は薄らいでいる。中古品ビジネスの専門メディア、リサイクル通信によると国内のリユース市場は調査を始めた2009年から13年連続で拡大している。2009年には1兆1000億円規模だったが、2030年には4兆円になる見込みだ。

とはいえ、古着販売の事業化は簡単ではない。アパレル大手オンワードホールディングス(HD)傘下のオンワード樫山は、2009年に衣料品循環システムの構築を目指すプロジェクトを始動。その一環として、顧客から回収した衣類を古着として販売する取り組みを開始した。2014年から運営店舗の「オンワード・リユースパーク」、2018年からオンラインで販売している。2023年度上期までに約730万点の古着を回収し、そのうち83%はリサイクル、17%はリユース(古着)として活用している。リユースが20%に満たない理由について、オンワード樫山の担当者は「1つの商品つき検品を4~5回行う中で、(品質面などの問題から)どうしても売り場までたどり着かない古着が多くなる」と話す。しかし、古着とはいえ、自社製品を再販する以上は商品の状態は妥協できない。再販できる古着の数はどうしても限られてしまうのが現実という。

“こうした中、アパレル企業の古着販売進出支援をビジネスとするスタートアップも出てきた。2020年に設立されたFree Standard(フリースタンダード、東京・世田谷)はアパレルや電化製品の二次流通を支援する。リユース商品の査定や在庫管理などを請け負う。古着などのリユースはサステイナビリティの観点で語られがちだが、同社は「サステイナビリティに対する意識は、まだ大きな購買理由にはつながっていない」と指摘する。アパレル企業が古着販売に参入している別の理由として、「顧客ロイヤルティーの向上」を挙げる。古着販売するブランドの多くは、衣料品を下取りするときに店舗で使えるポイントや割引券などを渡す。「ポイントなどと交換することでリピーターになってもらえる確率が上がる」(同社)。”

“もう1つのメリットは「社員のエンゲージメント向上」だ。古着販売の開始によって衣料品を下取りに出せるのは消費者だけではない。季節ごとに新作を購入しなければならない店頭スタッフも対象にすることで、従業員の経済的負担を軽減し、待遇改善につながる。従業員は社内割引を使って購入しているため通常の下取り額より安くなるが、エンゲージメントを高める有益な手法になり得る。”

“一方で、今後の課題となるのは、「自社ブランドのみ」を回収するアパレル企業に持ち込むメリットを消費者に提示できるかだ。クローゼットをすっきりさせることだけが目的の人にとっては、どのブランドでも持ち込めるゲオホールディングス(HD)の総合リユース店「セカンドストリート」やコメ兵ホールディングス(HD)の「KOMEHYO」の方が便利に映るだろう。アパレル企業は、まずブランドのコアなファンから始めることになるであろう。

“さらにオンワードHDの例にあるように、回収した衣類の多くが再販できる状態であるとも限らない。リメークや洗浄をするコストを差し引いても利益が出るようにするためには、あらかじめ新品の価格を高めに設定しておく必要もありそうだ。H&Mやユニクロを除き、古着販売をしているのはパタゴニアなど価格帯が高めのブランドが目立つ。超えるべきハードルはあるが、新作と古着の両方で稼ぐ事業モデルが築ければ、アパレル企業の収益力は大きく高まる可能性がある。”

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