号外:北海道、合成燃料の「聖地」に

地球温暖化対策として脱炭素化を進めるために、石油製品の主用途である燃料については電気自動車のように電化することがひとつの方法です。ただし使用する電力を同時に(可能な限り)再生可能エネルギー由来等のCO2を排出しない電源(脱炭素電源)に切り替える必要があります。とはいうものの、石油製品を燃料として使用するすべての用途を電化することはできないでしょう。既存の設備などを有効活用する面からもCO2と水素から製造される「合成燃料」が選択肢のひとつとして検討されています。

2024年2月1日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

出光興産の製油所内にある水素製造装置(北海道苫小牧市)

北海道苫小牧市がCO2と水素でつくる合成燃料を筆頭に、次世代燃料の供給基地に生まれ変わろうとしている。苫小牧は国際貿易港と工業地域を持つうえ、新千歳空港にも近く周辺の燃料需要は旺盛だ。CO2を大量に排出してきた工業都市は最新の再生可能エネルギー技術を駆使し合成燃料の「聖地」を目指す。「(合成燃料の生産に)これほど条件がそろう場所はない」。出光興産北海道製油所(北海道苫小牧市)の山岸孝司所長は強調する。合成燃料はCO2と再生可能エネルギー由来の水素を反応させてつくる。主原料にCO2を使うため温暖化ガスを実質排出しないとみなされるのが特徴だ。

“山岸氏が苫小牧を適地とみる理由は大きく3つある。1つは大量に排出されるCO2だ。市内には出光の製油所をはじめトヨタ自動車や王子製紙などの工場が並ぶ。周辺にある北海道電力の苫東厚真火力発電所では燃料に石炭を使う。貯蔵技術もある。CO2を回収し地下にためる「CCS」で、2016年から19年まで計30万トンの貯留実績がある。技術を生かし出光は2030年までに北海道電力や石油資源開発(JAPEX)と年約150万トンのCO2をため、合成燃料の原料として使うことも検討する。

“2つ目は、もう1つの主原料である水素を生産しやすい環境だ。合成燃料には再生可能エネルギー由来電力で生産したグリーン水素が求められる。北海道製油所は80ヘクタールの遊休地を持つ。遊休地の一部に大規模太陽光発電所(メガソーラー)を設け、再生可能エネルギー由来電力でグリーン水素を生産する構想がある。不足する再生可能エネルギー電力は外部から調達する考えだ。”

“3つ目は、旺盛な液体燃料需要だ。寒冷地の北海道は全国の灯油需要の約2割を占める。特に苫小牧は北日本最大の国際貿易港を持ち、道内の物流拠点でもある。隣接する千歳市には国際空港があり、周辺は船舶用重油からトラック向け軽油、航空機用ジェット燃料など幅広い液体燃料が使われている。

合成燃料が注目されるのは常温で扱え、ガソリンスタンドなど既存のインフラをそのまま使えるからだ。水素は燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギーだが、効率輸送には体積を800分の1に圧縮する液化が欠かせない。マイナス253度の超低温で液化するため手間がかかる。エンジンや供給設備も専用施設が必要で投資はかさむ。”

出光はHIFグローバル社(①)と合成燃料の製造で連携する。処理工程を変えてガソリンや軽油、重油、ジェット燃料などの代替品を生産予定だ。北海道製油所では年約800万キロリットルの原油を処理しているが「2030年までに数万キロリットルを合成燃料に置き換えることを目指す」(山岸氏)。資源エネルギー庁によると合成燃料の価格は1リットルあたり最大700円とガソリンの4倍前後に及ぶ。CO2の回収・貯蔵の効率化とともにグリーン水素の生産コスト低減が課題だ。

液化バイオメタン混合燃料を使うLNGトラック

政府は2030年度に温暖化ガスの排出量を2013年度比で46%減らす目標を掲げる。企業や自治体にとって脱炭素の取り組みは待ったなしだ。より実用化が早いとみられているのは混合燃料だ。三菱商事とエア・ウォーター(②)は、液化天然ガス(LNG)にふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンを液化した新燃料「液化バイオメタン」を混ぜた燃料でトラックを運行している。液化バイオメタンの配合率は最大6割で、現在は10数台を走らす。充填スタンドは苫小牧市と石狩市に設けた。「現状は問題なく走行できている」(エア・ウォーター)。混合燃料は都市ガスなど既存のLNG設備を活用できる。

“環境省が温暖化ガス削減のモデルと位置づける「脱炭素先行地域」には北海道から札幌市や苫小牧市など6提案が選ばれた。都道府県別では最多でそれぞれが最新技術を駆使し温暖化ガス排出削減に挑む。食と観光に加え、グリーントランスフォーメーション(GX)が北海道の成長をけん引する柱になりつつある。

HIFグローバル:米国テキサス州ヒューストンに本拠を置き合成燃料の開発・製造で世界をリードするグローバル企業。ポルシェやシーメンス・エナジーなどのドイツ企業も参画。

エア・ウォータ(株):本社を大阪市に置く産業ガスメーカー。産業ガス事業では太陽日酸、日本エア・リキードと並び、日本での3大産業ガスメーカーの一つ。

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