牧場まで遡るファーストリテイリング③

“供給網の管理は、生産面での利点のほかに、欧州連合(EU)の環境規制を見すえたものでもある。EUはアパレル産業を対象に「デジタル製品パスポート」を今後導入する方針だ。衣料品ごとに原料の産地・加工場所、ライフサイクル全体での温暖化ガス排出量、再生原料の利用率などの情報をデータとして管理・開示させる。細かい条件は発表されていないが、原料レベルまで把握して透明性を高めれば、EU規制の要求にも対応できるようになる。ファストリは2023年8月からユニクロとジーユーの電子商取引(EC)サイト上で、個別商品の縫製国やリサイクル素材の比率を表示している。まず日米で始め、今後は世界に広げる方針だ。環境領域を担当する新田幸弘グループ執行役員は「法令に基づいて開示するのはもちろん、消費者が安心して商品を選べる環境を作ることが重要だ」と強調する。供給網全体の管理を進め「作ってから売るまで」を掌握しつつあるファストリだが、今後は「販売した後」の対応も迫られることになる。”

欧州連合(EU)が提唱する循環経済はリサイクルやリユース(再利用)を通じて、衣料品を着回し、廃棄しないことを目指す。一般的に、供給網を基盤として効率的な大量生産で売上高を伸ばしてきたこれまでのSPAモデルとは相いれない。ファーストリテイリングは衣料品を修繕したり刺しゅうを施したりする窓口を16ヶ国・地域の35店舗に設置。2023年10月には試験的に古着を販売するなど対策に動いている。海外勢も積極的だ。インディテックスは英国とフランスで再販サービスを提供している。顧客間でZARAの中古商品を自由に売買できる仕組みで、日本のメルカリに近い。今後提供地域を広げる方針だ。スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)はすでに2013年からブランドを問わない古着回収サービスを開始。2019年にはストックホルムの店舗で商品のレンタルサービスを始めた。”

“こうした取り組みの一方で、古具や修理などの循環型ビジネスを収益性の伴うモデルに転換できた大手アパレルはまだいない。A.T.カーニーの福田稔シニアパートナーは「供給網の管理にとどまらず、今後は自社のビジネスに『新品を売った後の面倒をみる』循環型事業を取り込めるかが焦点になる」と指摘する。ファストリ傘下のユニクロは、流行の商品を大量生産するファストファッションと異なり、長く着られる汎用的なデザインを採用している。循環型ビジネスとの相性はいいはずだ。グローバルSPAが直面する課題に、ファストリが解を見いだせるかが、売上高10兆円という目標の成否も左右する。“

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