号外:「地熱の街」秋田県湯沢市
日本列島は環太平洋造山帯の上に位置する火山国です。日本の地熱資源埋蔵量は、米国、インドネシアに続いて世界第3位です。温泉を楽しめるのはうれしいことですが、地熱発電の開発はあまり進んでいません。地球温暖化対策の側面からも再生可能エネルギーの活用促進が求められています。純国産エネルギーである地熱の活用もその有望な候補であり、注目が集まっています。
<超臨界地熱発電>の項を参照
2024年9月24日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“秋田県の最南東部にあり、山形県や宮城県に隣接する湯沢市は地熱発電の先進地域だ。市町村別の設備容量は大分県九重町に次ぐ全国2位。2020年代後半にも2つの発電所が運転開始を予定する。住民や有識者らでつくる協議会を市が運営し、官民一体で計画を進めることで「地熱の街」としての存在感を増している。”
“9月18日にあった木地山地熱発電所(湯沢市)の起工式。東北自然エネルギー(TOUSEC、仙台市)の下鳥順文社長が力を込めた。「地下に眠る純国産のエネルギーを使う地熱発電は、日本のエネルギー政策で重要な役割を担う」。同社は東北電力の子会社で、地熱発電事業を受け持っている。”

“湯沢市初となる上の岳地熱発電所は東北電とTOUSECが1994年に運転を始めた。東北電グループの同市内での2ヶ所目となる木地山地熱発電所は2029年から稼働する予定だ。同市では出光興産などが取り組む「かたつむり山発電所」も2027年の運転開始を控え、オリックスも矢地ノ沢地域で地熱開発の調査を進めている。山葵沢(わさびさわ)地熱発電所は2019年に運転を始めた。国内では23年ぶりの出力1万キロワット超の大型発電所で、運営会社の湯沢地熱(湯沢市)にはJパワーなどが出資している。前田知志社長は「人のやりくりも含めて出資3社の知見を生かし、効率よく運用している」と話す。点検のための計画停止を反映した2023年度の設備利用率は約8割だ。”

“湯沢市で地熱発電所の開発が順調に進んでいるのはなぜか。各事業者が口をそろえて指摘するのが、市との連携のしやすさだ。市は大学教授などの有識者のほか、温泉組合や漁業協同組合などでつくる協議会を運営している。それぞれの地熱発電所は原則年1回開く協議会を通じ、事業計画について地元の合意を得る。市企画課の佐々木訓班長は「地元と事業者の関係を取り持ち、共存共栄を目指す」と話す。湯沢市はエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が認定した「地熱モデル地区」の一つになっている。市内では地熱を生かし、ミツバやパクチーがハウスで通年栽培されている。特産のサクランボを使ったドライチェリーや乾燥野菜など加工品生産にも重宝している。”
“湯沢市は次世代の地熱発電技術として注目される「超臨界地熱発電」の候補地でもある。マグマに近い場所に存在する「超臨界水」を用いるため、蒸気が通常の地熱発電より高温となって発電効率の向上が見込める。地熱発電は風力や太陽光と比べて最大出力は小さいが、天候や季節に左右されず、発電所を24時間安定稼働させられるなどの強みがある。電力の安定供給には再生可能エネルギーも電源として育てていかねばならないが、その有望株の一つが地熱だ。”

“火山国である日本の地熱資源の埋蔵量は米国、インドネシアに続く世界3位。エネルギー換算で約2300万キロワットにのぼる。もっとも国内で稼働中の地熱発電の出力は約60万キロワット(2023年12月末時点)と、埋蔵資源の3%弱しか活用できていない。地熱開発には時間と経費がかかることなどが要因だ。経済産業省は地熱発電の出力を2030年度に計150万キロワットへ引き上げる目標を掲げている。JOGMECは開発コストやリスクを低減しようと、事業者への助成や債務保証を実施してきた。2020年度以降は探査・掘削の調査結果を新規開発をめざす事業者へ提供しており、取り組みを拡大する方針だ。地熱発電所は東北や九州に多く集積しているが、支援案件は信越や北関東にもある。先進地域の事例が他の地域によい影響を与えて地熱開発が盛んになれば、「資源小国」とも呼ばれる日本の立ち位置が変わりうる。”