私たちがユニクロを選ぶ本当の理由

2019年10月17日付けNIKKEI STYLE電子版に掲載された書評です。

「おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由」(幻冬舎新書)著者:米沢 泉

“カジュアルで、低価格。老若男女問わず手軽に着られるウェアとしてポピュラーなファッションブランド、ユニクロ。現代で「ユニクロの服をきたことのない人」を探すのは、かなり難しいのではないだろうか。価格が安いアイテムなら他にも同類のブランドが数多くあるのに、それらとは一線を画して、ユニクロがこれほどまでに浸透したのはなぜだろう。”

“副題は「私たちがユニクロを選ぶ本当の理由」だ。著者は、ユニクロの特徴として、ベーシックなデザインと豊富なカラーバリエーションを挙げている。ユーザーはニットやパンツ、シャツなど単体のアイテムを「部品」として組合せ、着用することができる。ユニクロの商品はコーディネートのしやすさが「売り」だ。”

“そして何といってもユニクロを印象づけるのは「機能性」だ。ヒートテック、ウルトラライトダウン、エアリズムなど防寒・涼感の機能をもつ素材が開発・製造され、大ヒットした。だが、こうした「完成された部品」に徹したため、ユニクロはファッション性の弱さという欠点も抱えている、と著者は指摘している。”

“平成初期、まだ人はファッションに競争や「特別感」を求めていた。大衆的で個性のないユニクロを着ているとバレる「ユニバレ」を嫌がる風潮があった。しかし2011年、東日本大震災を契機に社会の意識は大きく変化する。他者と競って流行を追うのではなく、倫理的な正しさを志す「エシカル」やエコに向かったのだ。人はフェアトレードの服を身にまとい、オーガニックな野菜を摂取するなど「ていねいなくらし」と、それを実践する企業を支持し始める。「服はむしろ少ない方がおしゃれ」(おしゃれ嫌い)という思想も高まっていった。”

“「インスタ映え」がトレンドとなった平成後半は、互いに繋がり、共感を得たい欲求が人の心をかき立てた。服は人を差異化させるためのアイテムではなく、周囲と共感して同調させるためのものとなった。「服にお金や時間をかけず、暮らしを大切にすることで倫理的に正しくありたい」。「ファッションは特別なものではない。誰もが買えて着られ、皆が共感するものだ」。こうした新たな価値観は、ユニクロのビジョンそのものだった。「ユニバレ」は恥ではなく、「ユニクロが良い」時代が訪れたのだ。”

ユニクロの服が好きか、嫌いかという議論は色々あると思いますが、みなさんの家の中にもユニクロの服はあると思います。我が家にも、ヒートテック、エアリズム、フリース、ウルトラライトダウン、下着にソックスと色々なユニクロの服があります。この書評にある平成のファッション感覚の変化についての考察は面白いと思いました。平成前半の「ユニバレ」(?)を嫌がる感覚から、震災を契機にエシカルやエコという「ていねいなくらし」が注目され、「服はむしろ少ない方がおしゃれ」(おしゃれ嫌い)という意識や、「インスタ映え」(SNS)から共感の欲求が生まれ、「服は人を差異化させるためのアイテムではなく、周囲と共感して同調させるためのもの」となり、ついに「ユニクロが良い」時代となったという分析です。

みなさんがこの説に同意されるかどうかは別として、このような消費者の意識の変化は、ユニクロに対してだけではなく、環境問題に対する関心にも見られると思います。現在、自然と共生し、持続可能な社会を築いて将来世代への責任を果たすという考え方(サステイナビリティ)が、世界中で共有されるようになりました。他人と差異化する個性的なものだけがファッションではなく、みんなで仲良く穏やかに暮らすためのワードローブもファッションだという意識は、私には親近感が持てます。

ユニクロを展開するファーストリテーリングの2019年8月期決算は、売上高が前期比7.5%増の2兆2905億円、営業利益は9.1%増の2576億円です。同社は海外に力を入れており、中核のユニクロ事業で海外分の営業利益が初めて国内分を上回りました。海外のユニクロ事業では、売上高の約半分を中国、香港、台湾が占めています。インド、ベトナムへも進出しています。韓国は日韓関係の冷え込みで減収減益でした。北米は赤字が継続しており、欧州ではイタリア・ミラノに旗艦店を出店し、巻き返しを狙っています。

ユニクロは、消費者の生活ニーズに寄り添った合理的な普段着を志向する「ライフウェア」という概念を2013年に打ち出し、他社のブランドとの差異化を図ってきました。該社は、今の時代を「資源大量消費型の社会に対する問題意識」が高まり、「永続的な繁栄に疑問符が付けられる時代」と述べ、「サステイナブルであることはすべてに優先する」としています。以前にご紹介した東レとの連携による、ダウン製品の回収・リサイクルや、ペットボトルからの再生ポリエステルを使用した製品開発がその具体的な取り組み内容です。アパレル企業が「サステイナビリティ」を意識した事業展開を加速することで、衣料品を通した環境配慮が広がり、深化してゆくことに期待しています。

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