号外:モノには魂が宿る:サステイナブルな価値観

2019年10月21日の日経ビジネス電子版に掲載された、米ハーバード大学のジェームス・ロブソン教授を取材したコラムからです。

日本人には非常に長い年月をかけて築き上げてきた文化的な「価値観」があります。「モノ」は米国では簡単に捨ててもいいモノですが、日本人にとっては単なるモノではなく、精神(スピリット)が宿っている「モノ」なのです。世界を見渡してみると、アフリカや欧州など、無機質なモノ(石や彫刻など)に何らかのパワーが宿っていると考える地域はあります。でも、日々の生活に使っているモノにまで魂が宿るという考え方は日本特有だと思います。

“日本では神道や仏教の建築、道具などが非常に精巧な技術を用いて作られてきました。文化的な道具(茶道の茶器など)や生活の必需品にも精巧な技術が使われていて、そうしたモノづくりが日本の製造業の原点にもなっています。日本人はすべてのモノ(道具)をいたわり、特別な注意を払って扱います。道具をいたわる人が大切に作っているモノなので、日本の製品は今も世界中から尊敬されています。高い「技術」が使われているだけでなく、作る人が自分の仕事に誇りを持ち、そのプライドをかけて特別な注意を払って作っているからです。”

“私たちは日々の生活の中で、非常にたくさんのモノと関わって生きています。人間らしく生きるためには、道具をただ道具として使うのではなく、美意識や感謝を持って扱うことで私たちの生活や仕事環境は豊かになります。特別な注意を払って作られたモノにはそれだけの価値があるし、人々はそうして作られたモノから喜びや満足感を得るのです。世界の人々が尊敬している日本の製品も、技術的にはパーフェクトではないかもしれないけど、そこに機械が作ったものにはない特別な魅力があります。着物でも木工品でも焼き物でも何でも、マスプロダクション(大量生産)にはない良さがあるから、人々から愛されるのです。人の手を加えることの価値を再認識して欲しいと思います。

ロブソン教授は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(宗教学)を卒業し、中国や日本、台湾で研究活動をした後、スタンフォード大学から仏教学の博士号を取得。ミシガン大学などで教えた後、ハーバード大学へ、2012年から同大教授です。毎年2ヶ月間は日本で過ごしているそうです。このコラムを読んで、自分がこれまで漠然と感じていた「モノを大切にする心」とか「もったいないの精神」とかが、日本人が非常に長い年月をかけて築き上げてきた文化的な価値観(サステイナブルな価値観)であることを改めて理解することができました。ロブソン教授はアメリカ人です。しかし日本およびアジアの宗教や生活を長年研究した海外の研究者だからこそ、実際の日本人が漠然と感じてはいても、あまり突き詰めて考えることのない文化的価値観を言語化し、指摘できるのかもしれません。ここにあるのは、「大量生産、大量消費、大量廃棄」とは異なる、サステイナブルなライフスタイルです。「大切に作っているモノ」には、そこにしかない「価値」があり、それを使うことで得られる「満足」があります。そのことが「モノを大切にする」ことにつながってゆくのだと思います。私たち日本人にとって、このような「価値観」は新しく獲得するものではなく、もともと私たちの中にあるものです。一昔前に比べれば、日本はとても便利で豊かな社会になりましたが、もともと持っている「価値観」を再認識すること、「モノを大切にする」ことが、持続可能な社会の構築(サステイナビリティ)につながってゆくのだと思います。

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