地球を着こなすサステイナブル・ファッション

三井住友フィナンシャルグループの環境情報誌「SAFE」VOL.125(2018年9月)に掲載された記事からです。

“ファッション業界のサプライチェーンは、農業から製造、販売に至るまで多岐にわたる。グローバル化によってサプライチェーンが分断され、身近にある服がどこから来ているのか見えづらくなる中、ファッションが環境にもたらす様々な影響が懸念されている。

“2013年4月24日、バングラディッシュの首都ダッカ近郊で縫製工場が入ったビルが崩壊。1,100人以上の命が奪われ、2,500人以上の負傷者がでる大惨事となった。2015年にはこの事故をきっかけに制作された映画「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション真の代償~」が公開された。製造現場での劣悪な労働環境、さらに皮革工場から川へ流れだす有害な汚染水やコットン畑で使用される農薬のリスクといった環境への悪影響が明らかにされた。

国連も従来のファッション産業の在り方に危機感を持ち、動き始めている。2018年1月、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は、ファッション業界での温室効果ガス削減について協議するため国際会議を開催。同会議には、アディダス、プーマ、ケリング、H&M、ヒューゴボスを含む38の有名ブランドに加え、紡績業者やリサイクル業者、環境団体が参加した。これに続き、3月、国連欧州経済委員会(UNECE)が「ファッションとSDGs(持続可能な開発目標):国連の役割とは」と題した国際会議を開く。温室効果ガスのほか、水資源、コットン栽培における農薬使用、労働環境といったファッション業界の様々な課題が共有され、持続可能な開発に向けての取り組みの必要性が訴えられた。”

“世界のアパレル市場は、2025年までに年平均3.6%(実質ベース)で成長していくことが予測されている(*1)。ファッション業界がサステイナブルな業態に生まれ変わらなければ、環境負荷のさらなる増大を避けることができない。

サステイナブル・ファッションの実現には、素材を生産する農業から、素材開発、企画、製造、販売、回収、廃棄まで、すべての段階での取り組みが必要になります。従来、コットンの栽培には大量の農薬が使用され、人体や環境に及ぼす影響が懸念されてきました。試算によると、世界の耕地面積の中でコットン畑が占める割合はわずか3%であるにもかかわらず、農薬の消費量は全体の11%、殺虫剤については24%にまで及ぶと言われています(*2)。

コットンフィールド

前述のように国連を舞台にした議論をはじめ、世界ではファッション産業での環境課題に関する情報が共有され、議論が進められています。欧州はやはりファッションの本場であり、世界的な著名ブランドも多く、世界のファッションリーダーとして、環境問題にも取り組んでゆく意識が強いのだと思います。それと比較すると、日本国内では綿花の栽培や、皮革の生産は決して多くなく、市場で販売される衣料品の輸入比率は数量ベースで97%(2016年度)ということもあり(縫製も少ない)、消費面への関心は高くても、原料や製造面での環境課題が見えにくいため、この問題に対する関心が低いように思われます。

サプライチェーンの川上に位置する繊維業界では今、エネルギー、水、有害化学物質が大きなテーマになっています。エネルギーについては、世界の温室効果ガス排出量の10%をファッション産業が占めていると言われています。またファッション産業は水消費量が世界で2番目に多い産業で、世界の排水量の20%を占めると試算されています。特に繊維の染色工程では大量の水を必要としています。生産プロセスでの省エネ、省資源といった対策を業界全体で推進してゆくことが求められています(*2)。

有害化学物質については、染料や機能性を付加する加工に使われる薬剤等に関する対策が進められています。染料では、発がん性が疑われるアゾ系染料の使用が制限されています。衣料用撥水剤については、含有されるPFOA(パーフルオロオクタン酸)が人体や環境に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、欧米を中心に規制が強化され、PFOAフリーの撥水剤への切り替えが進められています。

“グローバルに見ると、アパレル業界やスポーツ業界は積極的に環境問題に取り組んでいます。環境意識を広げるためには、「ファッション化」することが有効だと言われています。「ファッション化」することで、環境を意識することがかっこいい、素敵だ、豊かであると感じるようになれば、広く共感が得られるでしょう。それが定着すれば、当たり前のことになってゆきます。ファッション業界が動き出すことで、社会にポジティブなムーブメントを生むきっかけになるかもしれません。

2010年、グローバルなアパレルブランドや小売業者200社以上が集まり、持続的なファッション産業の構築を目指して「サステイナブル・アパレル連合(SAC)」が設立されました。SACが取り組むのは、サプライチェーン全体での環境・社会的影響の測定や評価方法の指標化です。日本企業としてはアシックス、帝人フロンティア、東レ、ファーストリテイリングが参加しています。

(*1):経済産業省製造産業局生活製品課「繊維産業の課題と経済産業省の取組」より

(*2):UNECE発表資料(2018年3月1日)より

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