号外:広がる「脱ミート革命」、ファッション業界にも

2019年10月28日付け日本経済新聞のコラムからの抜粋です。

“動物由来の食材や成分を使わない「ミートレス」がアメリカで急速に広がっている。ミートレスは温暖化ガスの排出削減や土地利用の減少、水の使用量減少など、環境保全への効果がある。消費者の問題意識も高く、植物肉などの代替品を好むようになっている。”

<農業・食肉>

ミートフリーの動きは、畜産から食肉処理、流通に至るまで農業・食肉業界のサプライチェーン全体に影響を及ぼしている。研究室が実質的に農場に置き換わり、食肉を加工する必要がなくなる可能性がある。そうなれば家畜飼料や食料の栽培に必要な土地の面積を減らし、農業に伴う温暖化ガスの排出量を削減することができる。米ビヨンド・ミートと米インポッシブル・フードは、米高級グルメバーガー「ベアバーガー」や大手バーガーチェーンの「バーガーキング」など様々な外食企業と提携し、消費者に代替肉(植物由来の材料を使って味と食感を本物の肉に似せている)バーガーを提供している。

ビヨンド・ミート・バーガー

<乳製品>

乳製品を使わない代替ミルクの代表格は豆乳とアーモンドミルクで、代替乳製品は消費者の間で人気が高まっている。売り上げが最も伸びているのは乳製品不使用のコーヒー用クリームで、ヨーグルト、卵、アイスクリーム、チーズの順に続く。植物性ミルクの市場は世界全体で180億ドル相当に上ると言われている。

<シーフード>

国連によると、世界の水産資源の9割近くがすでに枯渇したか、最大限まで漁獲または乱獲されている。さらに、養殖の有害な慣行が環境や健康に与える影響への懸念が高まっているため、各社はシーフード業界を持続可能にするために植物由来や細胞培養の製品に目を向けている。米グッドキャッチは代替ツナやカニを使っていない「クラブ(カニ)ケーキ」などを販売している。いずれもヒヨコ豆、そら豆、エンドウ豆、大豆などの原料を使い、藻類由来の油で風味を加えている。

<ファーストフード>

ファーストフード業界は代替肉バーガーをいち早く導入した。インポッシブル・フーズは米国で最近「インポッシブル・ワッパー」を発売したバーガーキングに植物由来のパテを供給している。一方、ビヨンド・ミートは、マクドナルドがカナダで試験販売する植物由来バーガーのパテを手掛けている。米ケンタッキーフライドチキン(KFC)は植物由来の鶏肉を試験販売した。

マクドナルド代替肉バーガー

<ファッション>

市場規模が2兆4000億ドルのファッション業界でさえ、環境への負荷を軽減するために植物由来の素材を取り入れている。2019年2月にはロサンゼルスで初めて「ビーガン(完全菜食主義者)・ファッション・ウィーク」が開催され、フルーツの繊維を使ったアニマルフリーのデザインや、パイナップルの葉から合成した皮革を紹介した。スタートアップ各社は、より持続可能な衣類やアパレルの素材を開発するためにバイオ技術を活用している。研究室で培養されたアニマルフリーの皮革(米モダンメドウ)や昆布由来のバイオヤーンを使ったスニーカー(米アルジニット)、生物工学を使ってシルクプロテインから繊維を合成(米ボルトスレッズ)、トウモロコシの皮やおがくず、菌糸体を使って皮革を作り出した(米マイコワークス)等だ。こうした新しい素材により、動物の皮革製品の市場シェアは下がる可能性がある。そうなれば家畜の需要や、温暖化ガスの排出量が減るかもしれない。

ミートフリー製品の市場は急成長していますが、健康への効果についてはなお議論の余地があるようです。代替肉バーガーはタンパク質やビタミン、ミネラルを含む一方で、重度に加工された食品でもあるため、塩分や飽和脂肪酸が多くなりがちだそうです。地球規模での人口増加のため、食料不足が懸念されています。植物由来や合成された代替肉は、食料不足を緩和するかもしれません。その一方で、遺伝子操作した作物の安全性は今でも議論が続いています。人間の技術から生み出された食物が、数世代を経て人間にどのような影響を与えるのか、計り知れない部分もあります。私自身は不安を払拭することができません。サステイナブルであることは重要ですが、くれぐれも安全性を確認しながら開発を進めて欲しいと思います。

天然皮革代替の人工皮革については、これまでにも合成繊維サイド(化石原料由来)から色々な素材が開発され、提案されています。既に市場に根付いている素材もありますが、天然皮革の使用が大幅に減少しているようではありません。最近のエシカル・ファッションの傾向から天然毛皮に対する批判もあり、人工毛皮(化石原料由来)が採用されるケースもあります。非食用植物由来ないしは再生可能なバイオ技術で、実使用可能な代替皮革が開発されれば、天然皮革を代替してゆく可能性があるでしょう。ただファッションの場合は素材としての質感や、経年変化による「風合いの変化、味わい」といった価値も重要です。今後の開発動向に注目してゆきたいと思います。

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