号外:地球深部で起きる炭素循環を解明、驚きの事実
2019年10月29日付けNational Geographic電子版に掲載された記事です。
“大人である私は、常に12kg強の炭素を持ち歩いている。皆さんもほぼ同じだ。人体の約18%が炭素原子からできているからである。こうした炭素原子は、私たちが食べ物として取り込む前、空気や海、岩石、そして別の生物の体の中にあった。実は地球に存在する炭素の90%以上が地中にある。”
“地中にも微生物が繁栄していて、それらがもつ炭素の質量の合計は、77億人の人類がもつ炭素質量の合計の400倍に上ることがわかっている。地球最大級の生態系が地下深くにあるという発見は、10年にわたって地球内部に機構を調べた「深部炭素観測(Deep Carbon Observatory:DCO)プロジェクト」から得られた知見だ。”
“植物や動物に由来する炭素は、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むプロセスにより、数億年の歳月をかけて地中深くに潜ってゆく。地中に取り込まれた炭素は、長い時間がたてば、ダイヤモンドや岩石、火山ガス中の二酸化炭素となって再び地表へ戻ってくるのだ。こうした地球の炭素循環プロセスは、かつては安定していたが、人間がバランスを崩してしまった。人類が膨大な量の炭化水素(石油、天然ガス、石炭)を地中から取り出して燃やすようになったせいで、地中の炭素が地表に戻る部分だけが加速してしまったからだ。”
“この炭素循環の破壊こそ、私たちが「気候クライシス」と呼んでいるものの正体なのだ。気候変動は、遠い未来ではなく、ほんの1世代か2世代先の人類の存亡にかかわる問題だ。非常に危険なレベルの地球温暖化を避けるためには、今から20~40年後には化石燃料による二酸化炭素の排出をゼロにし、すでに大気中に放出された二酸化炭素の多くも除去しなければならない。”
このような記事を目にすると、スケールの大きさに圧倒されますが、ここにこそ私たちが直面している環境破壊、気候変動の本質があるのだと思います。私たち人類が、何億年もかけて形作られてきた地球の炭素循環のバランスを、200~250年程度の非常に短い期間で崩してしまったのです。DCOには世界55か国、1200人の研究者が参加しました。まさに現代の世界の英知を集結した研究だったのだと思います。その研究成果を踏まえて、今から20~40年の間にCO2の排出をゼロにし、すでに大気中に放出されたCO2の多くも除去できなければ、人類の存亡にかかわる問題だと指摘されています。「そのような予測は大げさ過ぎる。根拠が十分ではない。」と言い出す人は必ずいるでしょう。しかし私たちは既に地球の各地で様々な気候危機が顕在化していることを知っています。今から20~40年というのはあっという間に過ぎる時間です。予測の精度がどうのこうのと言っている場合ではなく、可能な対策から速やかに実行すべきと思います。
「自然界には、炭素を隔離する、信じられないくらい強力な仕組みが存在する」ということがDCOの報告の中にあります。
“その一例は、オマーンにある「サマイル・オフィオライト」という岩石層に見ることができる。はるか昔、地球の上部マントルから押し上げられてきたこの岩石は、風化作用と岩石中の微生物の作用によって空気中の二酸化炭素を取り込んでいる。このプロセスの効率は非常に高い。実験により、オフィオライトの岩石層に炭素を豊富に含む流体を注入すると、炭素塩鉱物が速やかに形成されることがわかっている。これを利用して、大気から数十億トンの二酸化炭素を除去可能性があるが、途方もない規模のプロジェクトになる。オフィオライトは北米やアフリカなどでも見つかっている。他にもハワイなどで見つかる玄武岩も、自然界の炭素隔離作用のひとつだ。”
自然の力って本当にすごいですね。「地球の炭素吸収能力に関する新しい発見」ということですが、確かに「途方もない規模のプロジェクト」になるのだと思います。しかし時間が限られているのですから、他にもっと有効な手段がないのであれば、この発見を利用した対策も検討すべきだと思います。また、地球のマクロ環境に関することですから、各国の協力で対策を進めてゆくしかありません。一方で私たちが個人的にCO2の排出抑制に貢献できることもありますから、ひとつひとつを積み重ねてゆくことも忘れてはいけないと思います。