号外:地球温暖化対策会議(COP25、マドリード)が始まります

「パリ協定」は2015年の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みです。「パリ協定」では、地球の気温上昇を産業革命前から2℃以内に保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標を掲げています。当時のオバマ米政権と中国の習近平政権という2大排出国が、採択から1年足らずでスピード発効に導きました。

「パリ協定」は各国が自主的に温暖化ガスの排出削減目標を作ります。新興国を含むすべての国を参加させるための方法ですが、どうしても目標は甘くなりがちです。国連の報告書によると、現在各国が提出している削減目標を足し合わせても、「パリ協定」の目標である2℃以内を達成することは困難です。国連環境計画(UNEP)は、11月26日、現在の各国の削減目標では、地球の気温は3.2℃上昇すると予測し、各国に削減目標の引き上げを促しています。3℃以上地球の気温が上昇すれば、自然災害の頻発などで生活に大きな影響がでると警告しています。

「パリ協定」では、5年毎に削減目標を提出するようにすべての国に義務付けています。2020年はその最初の年で、各国は国連に提出している排出削減目標を更新します。「2℃目標」を達成するためには、各国の排出削減目標の上積みは不可欠です。また、先進国より途上国の排出が大きくなった今、温暖化防止の実効性を高めるには途上国の排出削減は避けて通れません。先進国が率先して目標を上積みするのに加え、途上国が前向きになるような資金・技術支援がカギになります。

11月4日、中国に次ぐ世界第2位の温暖化ガス排出国である米国が「パリ協定」からの離脱を正式に国連に通告しました。ポンペイオ国務長官は「パリ協定は米国に不公平な負担を与えている」と強調しています。米トランプ政権は2017年に協定離脱を表明しました。その後、日本や欧州が再三、残留を説得してきましたが方針を変えることはありませんでした。

世界気象機関(WMO)は11月25日、2018年のCO2の世界平均濃度が407.8ppm(ppmは100万分の1)に達したと発表しました。前年より2.3ppm上昇し、過去最高を更新しました。WMOは「将来の世代が気温上昇や生態系破壊など気候変動の深刻な影響に直面することになる」と警鐘を鳴らしています。WMOの事務局長は「パリ協定の合意にもかかわらず、温暖化ガスの濃度は、低下はおろか上昇が鈍化する兆しさえも見られない」と述べています。

国連環境計画(UNEP)は、化石燃料の生産に焦点を当てた別の報告書も公表しました。各国政府の2030年までの化石燃料の生産計画は(主要産出国:米国、中国、ロシア、サウジアラビア、インド、カナダ、オーストラリア等)、「2℃目標」を達成するうえで許容できる量よりも53%多く、「1.5℃目標」よりも120%多いと指摘しています。特に、CO2の排出が多い石炭の生産量が石油やガスに比べて多く、報告書は「パリ協定」の目標を達成するためには化石燃料の大幅な削減は不可欠であるとの見解を示しています。

2019年11月29日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より

第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が12月2日からマドリードで開かれる。2020年の「パリ協定」の本格運用開始を前に、各国が削減目標の上積みなどを議論する。ただ、途上国への資金援助などを巡り、米国が11月4日にパリ協定からの離脱を正式に通知。議論を導く絶対的な牽引役が見当たらず、国際連携にほころびも目立つ。国に代わり企業など民間レベルの取り組みも欧米では進むが、裾野を中国など新興国にも広げなければ排出減は望めない。”

“温暖化が続けば猛暑や豪雨、海面上昇、生態系への影響などのリスクが地球規模で拡大する。一部島しょ国は国土が消滅する恐れも出ている。そのため国連事務総長は11月20日、COP開催を前に「化石燃料の時代は終わらせ、気候変動に抜本的な対策をとるべきだ」と呼び掛けた。”

“先進国と途上国の溝はまだ深い。経済発展が著しく温暖化ガスの排出が急増している中国やインドは、気候変動枠組み条約上は「途上国」に分類される。温暖化対策を支援する多国間の「緑の気候基金」などには、中国やインドに比べ、そのほとんどを日本などの先進国が拠出する。すでに中国の国内総生産は日本やドイツを上回り、さらに再生可能エネルギーでも世界シェアや技術で先進国をしのぐ分野も持つ。それでも中国は9月にも「先進国はもっと資金提供すべきだ」と主張した。”

国にかわり米国や欧州、日本では民間主導の取り組みが進む。自社のエネルギー源を再生可能エネルギーだけとする「RE100」に加盟する企業は、マイクロソフトなど世界で150社以上、日本でも約20社にのぼる。しかし中国やインド、ロシアなどでは民間の動きは鈍い。日米欧の企業や自治体だけがいくら取り組んでも、新興国の経済発展が著しい現状では地球全体の温暖化ガス削減にはつながらない。

12月2日からのCOP25(マドリード)で、建設的な議論がなされることを期待したいと思います。国連のような民主的な機関で、お互いに議論することで利害関係を調整することは素晴らしいことです。ただ結論を得るまでに往々にして時間が掛かります。多くの科学者が指摘しているように、地球温暖化に対しては速やかに対策を実施することが必要です。時間は刻々と過ぎ、状況は悪化してゆきます。対策が遅れれば遅れるだけ、修復にはより膨大な努力が必要になります。あるいは回復不能な限界点を越えてしまうかもしれません。記事では「議論を導く牽引役が見当たらず」と言われていますが、このようなテーマではリーダーシップを発揮する国(乃至は人)が必要だと思います。日本がそのような役割を果たすことができれば良いのですが、東日本大震災以降に原子力発電が停止し、主たる発電源を火力に頼っている現状では、自国のCO2排出量削減もままならず、残念ながら適任とは言えないでしょう。今後の議論の進展を注視してゆきますが、ちょっと心配です。

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