アパレル余剰在庫削減への取り組み

2019年12月11日の日経ビジネス電子版に掲載された記事より

9月14日にさいたま市内に衣料品店「アンドブリッジ」が開店しました。同店は店内にブランド名を表示していません。300坪のフロアーには百貨店やショッピングセンター向けのブランドの衣料品や雑貨が並び、多くが正価の半額以下で販売されています。特定のブランドを安価で販売する「アウトレットストア」とは異なる業態です。

「アンドブリッジ」では、衣料品メーカーやセレクトショップから余剰在庫を仕入れ、値引きして販売する「オフプライスストア」呼ばれる、米国ではよく見られる業態ですが、日本ではこれまでほとんど見られませんでした。店内にブランド名を掲げないことで、頻繁な商品の入れ替えに柔軟に対応し、特定のブランドが安売りしているという印象を緩和します。

衣料品メーカーは製造コストを下げ、機会損失を防ぐために商品を過剰に生産し、シーズン終盤に売れ残りを値引き販売や廃棄で消化してきました。しかし値引き販売は正価販売に悪影響を与えます。これ以上の低価格販売を避けたいアパレルメーカーにとって、ブランドとの関連が薄まった形での値引き販売は、比較的受け入れやすいようです。

同様に、ブランド価値をできるだけ棄損しないように余剰在庫を低価格で販売する業態があります。ファイン(名古屋市)が展開する衣料品ブランド「リネーム」は、他社の売れ残り品を仕入れ、ブランドのタグを付け替えて格安販売しています。通販サイトの「グラッド」は有名ブランド衣料を半額程度に値引きして販売しますが、セール情報は数時間から数日でサイトから消えてゆきます。

昨今、アパレル企業の余剰在庫破棄については消費者の厳しい目が注がれています。そもそも「ファッション」ですから、シーズンごとにある程度の売れ残りが発生することは避けられません。しかも百貨店やセレクトショップでの販売が中心の従来のアパレル企業では、なかなか精度の高い需要予測に基づいた生産と言っても簡単ではありません。無駄のない生産・販売の努力をすることは当然として、前述のような流通経路を利用して、ブランド価値をできるだけ棄損しないように余剰在庫を販売することは必要なのかもしれません。

一方で自社店舗と直結したSPA(製造小売り)のアプローチは異なります。「ZARA」のインディテックス(スペイン)は、流行をとらえた商品を小ロット生産して短期間で売り切る戦略です。「ユニクロ」のファーストリテイリングは商品企画や工場、倉庫を連動して、フレキシブルに商品を店舗に供給することでセールに回す商品を減らしています。両社とも自社店舗から得られるダイレクトな消費者ニーズ、その変化を分析し、最大限に活用する取り組みです。 「無駄な商品を作らない」ということは、資源の有効活用と環境配慮の観点からも、もっとも基本的で大切なことです。私たちに身近な必需品である衣料品においても同様です。「ファッション」という特殊性はありますが、最大限の努力が払われるべきだと思います。

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