号外:COP25での日本の立場と「欧州グリーンディール」

2019年12月2日からスペインのマドリードで第25回気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が開催されました。日本からは小泉環境相が参加し、演説しましたが、国際批判の強い石炭火力発電の廃止など脱炭素に向けた具体策には踏み込みませんでした。また現状の温暖化ガス削減目標の上積みも見送りました。一方で、欧州では英国やフランス、ドイツなどの主要国が将来の石炭火力発電を全廃する方針を打ち出し、「脱炭素」が国際的な流れになりつつあります。

COP25:小泉環境相

2020年から本格運用が始まる国際枠組み「パリ協定」は地球の気温上昇を産業革命前から2℃以内に抑えることを目標としています。一方で国連は、各国が取り組む現在の対策では地球の平均気温は産業革命前から3.2℃上昇すると分析しています。このような状況の中、温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を国内外で新増設する計画を持つ日本への国際社会からの批判が強まっています。

各国の石炭火力発電廃止計画

日本では2011年の東日本大震災における東京電力福島第1原子力発電所の事故後、全国の原発が停止し、再稼働が進んでいません。このため必要な電力を確保するための代替電源として、安価で安定的に発電できる石炭火力発電が伸長しているという事情があります。日本全体で省エネルギーを進め、年々温暖化ガスの排出量を削減してきていますが、「脱炭素」に向けた日本の取り組みは不十分だと批判されています。

日本は2030年までに温暖化ガスを2013年度比26%減らすという目標を掲げています。しかし現状では、その達成は難しいと言われています。原発事故前には電源構成比のうち3割前後あった原発は、2017年度時点で約3%にとどまります。普及を進める再生エネルギー発電も15%程度にとどまり、政府が掲げる「主力電源化」にほど遠い状況です。

COP25と並行してベルギーのブリュッセルで開催されている欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、12月11日、環境分野の総合対策(「欧州グリーンディール」)の概要を発表しました。2030年の温暖化ガスの排出削減目標を1990年比40%減から50%減へ引き上げた上で、さらに55%を目指すとしています。また2050年には域内の排出を実質ゼロにする法案を2020年3月までにまとめる方針を示しました。

踏み込んだ内容であることと同時に、その施策のスピード感に驚かされます。欧州委員会は「これが我々の新しい成長戦略だ」とし、新産業創出や雇用増につながるとしています。大幅な排出減に慎重な加盟国を支援するための仕組みづくりにも着手します。環境関連のインフラや産業振興に向けて、欧州委員会は1千億ユーロ(約12兆円)規模の官民による資金メカニズムの設立を目指します。

その後の討議の結果、欧州委員会は、2050年までに域内で排出される温暖化ガスを実質ゼロにする目標で合意したと発表しました。ただポーランドは現時点では加わらず、2020年6月までに再び議論するとのことです。この目標の設定には、当初、エネルギーを化石燃料に依存しているポーランドとハンガリー、チェコが慎重な姿勢を見せていました。しかしEUが用意する1千億ユーロ(約12兆円)規模の官民による資金を利用して、風力や太陽光発電への転換、新産業の創出や石炭産業従事者に職業訓練を進め、その影響を緩和することで、チェコとハンガリーは2050年の実質排出ゼロ目標に同意しました。

欧州では、着実に温暖化対策が進んでいます。主要国から、化石燃料への依存が高い国々への資金援助の体制も整いつつあります。先ずは欧州連合(EU)という枠組みでの対策が進んでいますが、中国、インドを含めた途上国での温暖化ガス排出量が過半を占める現状では、今後はこれを世界に広げてゆかないと、地球規模での温暖化対策にはなりません。日本は、必要な電力の確保(石炭を含む火力発電への依存)と「脱炭素」を求める世界の潮流の板挟みになって、なかなか世界のリーダーシップをとるような政策につながっていません。またそのような日本の姿勢への国際社会からの批判も強まっています。地球環境を守ることは、とりもなおさず日本の環境を守ることにつながります。何とかこのジレンマを抜け出して、世界に貢献する方策を見出さなければならないと思います。

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