アパレル企業の国内生産:デジタル融合、高品質品での輸出対応

このHPでも、ゴールドウィンのアウトドア衣料の国内受注生産についてご紹介しました。一般のアパレルでも同様の取り組みがなされています。

2019年12月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より

“海外生産が主流のアパレル業界で、あえて国内で生産する動きが出てきた。アパレル店「TOCCA STORE銀座店」には今では珍しいオンワードの純国産の商品が並ぶ。ワンピースではウエストから裾にかけて4本、生地を重ね合わせて縫うラインが入っており、動くたびに裾がきれいに揺れる。日本の熟練工の業だ。”

オンワードの店舗

国内の衣料品の輸入比率は約98%に達し、人件費の安い海外生産が主流です。このなかでオンワードはあえて国内産の復活を進めています。同社は10月に約10億円を投じて「カシヤマ サガ」工場(佐賀県武雄市)を新設しました。新工場の特徴はデジタル技術と熟練工の技の融合です。デジタル技術で周辺作業の効率を高め、縫製は熟練工が手作業で担い高品質を追及しています。

オンワードの東京の本部からデザイン等のデータを佐賀工場へ送ると、袖部分などのスーツの生地パーツを自動で裁断します。裁断するために生地に下書きをしたり、型紙を押し付けたりする人の手の作業がなく、スーツの場合、約10分で約40のパーツを裁断できます。ミシンもデジタル化し、ラインごとの進捗状況をタブレット端末で確認し、生産ラインの問題点を検知し、効率を高めています。

新工場を支えているのは、約75人の熟練工です。婦人服だけでもワンピースやコートなどアイテム数は多く、縫製するミシンも異なります。デジタル技術を取り入れた工場は海外でも作れますが、縫製を担う職人の技術力が低ければ、全体の作業効率が落ち、高品質も保てません。海外工場では1人の職人が縫製の中の1つの工程を担い、流れ作業で大量生産するのが主流ですが、佐賀の工場では熟練工が1つのミシンを使い終わると、ほかのミシンに移り複数の商品を生産します。

国内に自社工場を持つリスクはありますが、オンワードは2つのビジネスチャンスに着目しています。1つは輸出です。中国や米国では日本製アパレルの愛用者が増えていて、訪日外国人の中には日本の高度な縫製技術を求めて、純国産の衣料品を買い求める客も多いとのことです。「メード・イン・ジャパン」のブランドを訴求した輸出を検討しています。

もう一つは国内工場から国内の顧客への直送です。例えばオンワードが2020年から生産を計画しているオーダーメードスーツの場合、他社では納期に3~4週間かかりますが、オンワードでは約1週間で顧客の自宅へ届けることができます。工場から顧客へ直送することで、顧客の満足度向上につながりリピーターを獲得できる可能性があると考えています。

オンワードがデジタル技術と熟練工を融合するのに対して、三陽商会は徹底的に人の技にこだわります。2019年秋冬の新ブランド「サンヨーソーイング デザインド バイ トキト」では、ひときわ手の込んだコートやジャケットあります。子会社のサンヨーソーイング(青森県七戸町)の職人が縫製しています。同社は「技術力が求められるコートはこれからも職人技が不可欠」であると考えています。平均勤続年数19年の職人ら115人がコートを年3万6000着生産し、国内外の著名ブランドも縫製を委託しています。

サンヨーソーイング青森工場

競争が厳しい国内のアパレル業界では、コストが安い海外縫製が主流になり、国内縫製工場の廃業が相次いでいます。オンワードと三陽商会は、自ら縫製技術を守るために国内での生産を維持する狙いもあります。

国内で消費者が衣料品に支出する金額は減少傾向が続いています。総務省の家計調査によると、「被覆及び履物」の2018年の消費支出額は約11万4000円で、2008年比べて約2割減っています。ファッションのカジュアル化、ネット販売の台頭などの影響で、百貨店および百貨店向けが中心業態だったオンワードや三陽商会などアパレル企業のビジネスは苦戦しています。オンワードや三陽商会では、強みである高品質の商品を、国内工場を利用して多品種、小ロット、短納期で生産することで、新しいビジネスの構築を模索しています。

衣料品にも色々なアイテムがありますから、それぞれのアイテムに適した生産・物流・販売体制を考えなくてはなりませんが、「手間をかけた良い製品を、できるだけ長く大切に使うこと」は環境に配慮した消費行動(サステイナビリティ)の基本です。伝統に培われた職人技に、最新の情報技術による顧客ニーズの把握と付帯作業の効率化を組み合わせ、高品質な製品を国内で小ロット、短納期で生産することは、衣料品に限らず有効なことだと思います。また様々な業種での技術継承も大切な課題です。いったん途切れてしまうと、その技術を再現するのは非常に困難になります。安価に(必要量以上に)大量生産された輸入品を大量に消費(余剰品を廃棄)するのではなく、一部の製品が(良く選定する必要はあるでしょうが)、国内生産に回帰することは、望ましいことだと思います。

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