号外:COP25の停滞、足並みが揃わない温暖化ガス排出量削減
世界のCO2排出量は今年(2019年)も前年比で増加が見込まれています。英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ(気候変動)」に12月4日掲載された論文では、化石燃料を燃やすことで排出されるCO2排出量は今年、2018年比で0.6%増加する見通しです。増加幅は昨年の2.1%、2017年の1.5%からは減少しています。増加のペースが遅くなったのは、米国および欧州連合(EU)内での石炭消費量の減少や、中国とインドでの経済成長鈍化などが原因とみられます。それでも今年のCO2排出量は、パリ協定が採択された2015年よりもなお4%多い水準です。今年の見通しでは、増加幅は減少していますが、総量としての増加は続いており(減少に転じてはいない)、しかも途上国の経済成長鈍化の影響が反映されていて、パリ協定採択後に抜本的な対策が採られ、それが有効に機能した結果とは言えないようです。
パリ協定では、各国の温暖化ガス排出抑制努力によって、産業革命前から世界の平均気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑える目標を掲げていますが、その達成に向けた具体的な道筋が見えてこないのが現状です。2016年に発効した同協定は途上国を含むすべての国の参加を優先し、削減目標は各国が自主的に設けることとしました。その結果、目標設定は甘くなり、国連環境計画は11月、各国が現在の目標を達成しても気温は3.2℃上昇すると警告しています。
12月2日からスペインのマドリードで第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が開催されました。2020年からパリ協定の本格運用が始まる前に、各国が提出している削減目標を更新、引き上げることが議論されました。また「排出量取引」のルールでも協議が続いています。途上国で出る温暖化ガスの削減を先進国が支援した場合、技術支援などの貢献度合いに応じて削減量をどのように配分するかの調整を行っています。
大きな懸念材料は、米中や日本などの主要排出国が大幅な排出削減に必ずしも前向きではないことです。米中の排出量は世界の4割を占めます。主要排出国の取り組みなしに温暖化対策の実効性は確保できません。
パリ協定はあらゆる国の参加が前提となります。しかし本格始動となる直前のCOP25でさえ、なお各国の足並みはそろっていません。「排出量取引」では、先進国が途上国に協力して温暖化ガスを削減した分を、自国の目標達成に充てることを主張しましたが、先進国を利するだけだとしてブラジルやインドなど途上国が反発し、決定は2020年のCOP26へ先送りになりました。
欧州連合(EU)は会期中、排出量削減のさらなる引き上げを一貫して要求しました。これに対して、米国は途上国と同様に慎重な立場を示しました。(米国は2020年11月を念頭にパリ協定からの離脱手続きを進めています)石炭や化石燃料の産業を守りたいオーストラリアなどが反対し、打つ手がない日本も立場を明確にしませんでした。温暖化で水没の危機にある島しょ国のツバルは、「我々の野心が後退させられてはならない」と強く訴えています。
温暖化対策は待ったなしです。異常気象は頻発しています。米国北部のアラスカ州の都市では、7月の最高気温が観測史上最高となる30℃を超えました。氷河や糖度が解け、インフラへの損害額も数百億円に上っています。欧州を熱波が襲い、日本でも大型台風や集中豪雨が生活に影響を与えています。
パリ協定とは距離を置く米国内でも、企業は脱炭素に向けた対応を進めています。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及が進んでいます。事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」の加盟企業は世界で200社を超えています。ただ各企業の努力だけでは限界があります。各企業はそれぞれの地域で利用可能な再生可能エネルギーを利用するでしょう。しかしそれだけでは十分ではありません。国家として、あるいは世界として電力(エネルギー)供給の在り方を大きく脱炭素の方向へ変更しない限り、抜本的な地球温暖化対策にはつながってゆきません。
投資家も動き始めています。温暖化ガスの排出が多い石炭火力発電などの化石燃料から投資を引き上げる動きが進んでいます。欧州委員会は12月11日、環境関連の総合対策「欧州のグリーンディール」を発表しました。2030年の温暖化ガス排出削減目標を1990年比40%減から最大55%減まで引き上げ、2050年には域内の排出を実質ゼロにすることを目標にしています。欧州環境機関(EEA)は各国政府に対して、石炭火力発電やガス施設への投資をやめて、クリーンな技術の開発に資源を投入するように求めています。「現在我々が直面している最大のリスクは、間違った投資をすることだ。限界効率を高めるために莫大な投資をしても、2030年の目標には到達できるかもしれないが、2050年の目標は決して到達できない。そのやり方では結局行き詰ってしまう。」と強調しています。
COP25は15日、各国の温暖ガス削減目標を引き上げることで合意し、閉幕しました。対策の強化が必要との内容を合意文書に盛り込みましたが、それを義務付けてはおらず、削減目標の上積みも各国の判断に委ねました。またパリ協定の本格運用についての詳細なルール作りは、2020年のCOP26へ持ち越されました。来年からのパリ協定本格運用を前にして、各国の足並みは決して揃っているとは言えません。このままでは対策が遅れる可能性もあります。実効性の確保は大きな課題として残ったままです。