若者による創造的破壊に備えよ:気候変動への対応、ファッション業界も

このところ気候変動問題について、若者が厳しい姿勢を打ち出すことが増えています。気候変動は現在進行形の危機であり、既にいたるところで顕在化し、様々な被害が発生しています。世界で対応策が協議されていますが、もし十分な対策がとられなければ、将来、時間の経過とともに状況は悪化し、より大きな困難に直面するのは次の世代(若者)以降ということになります。したがって、彼ら彼女らにとってはより切実で、重大な問題になる可能性があります。

2019年12月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された「The Economist」の記事からの抜粋です

“若者たちは、温暖化ガス排出量が増大するのに伴い、環境を重視しない悪者たちに対抗する手段として、「恥」「嫌悪」を使うようになった。その標的は両親だけではない、今や全産業が対象だ。”

“エネルギー効率の良い鉄道を使わずに、CO2を大量に排出する飛行機を利用するのは恥ずべき行為だとする「飛び恥」運動や、ファストファッションのボイコット肉を全く口にしない食生活など、一部の若い消費者が大企業と、企業を規制する立場にある政治家に強い影響力を及ぼすようになっている。”

“彼らを狂信的と一蹴することはたやすい。こうした若者の多くは欧米人で、裕福な家庭で育ち、十分に教育を受けており、社会正義への意識が強い。これに対して圧倒的に数が多い一般の人は、月々の生活をやりくりできるか考えるのに精一杯で、環境問題どころではない。また、今後成長してくる新興国の消費者が、「恥」を手段に使う欧米の若者の懸念をどれだけ共有するかは不透明だ。とはいえ中国のような消費大国でも気候問題への意識は高まりつつある。プラスティックや毛皮の消費に反対する運動も、ネットでのキャンペーンが追い風となって一定の盛り上がりを見せている。”

実際の気候変動への懸念だけでなく、気候変動への対応を新たなビジネスチャンスと考える投資家が増えていることも環境重視の機運を高めている。ファッションと食品の業界では、持続可能性をブランド化する新世代のスタートアップ企業が増えている。一部の企業の環境配慮は見せかけだけかもしれないが、大企業に創造的破壊をもたらしているのは確かだ。”

“例えば「飛び恥」。全世界の排出量の約2%を占める飛行機を使うことに罪悪感を感じないのかと個人に呼びかけたのが「飛び恥」の始まりだ。だが、今や利用者全員が悪いといった集団的責任に近いものに変容している。一部の航空会社、特に欧州北部の航空各社への影響は深刻だ。「飛び恥」の運動が生まれたスウェーデンでは1年以上、航空機利用者が減り続けている。KLMオランダ航空は消費者に「責任ある飛行機の利用」を呼びかけている。スウェーデンには「飛び恥」から派生した「列車自慢」という言葉まである。

ファッションと食品の分野も同様だ。どちらも業界全体として航空業界よりはるかに多くのCO2を排出し、大量の水を使い、土壌と河川を汚染している。ZARAやH&Mなどのファストファッションは、毎年販売するコレクション数を大幅に増やしたため、使い捨て文化に拍車がかかり、欧米の環境活動家らの怒りを買っている。新興国の消費者も使い捨ての見直しに追随するかもしれない。衣料品各社は自らの行動の後始末のため、何らかの取り組みをしていることを示さざるをえないと感じている。2019年8月、米ギャップやナイキ、スウェーデンのH&M、スペインのZARAを含む世界的衣料品会社32社は、ファッションの環境への負荷を減らすための協定「ファッション協定」をフランスで結んだ。各社は自己顕示欲と環境への思いを平和的に両立させる、リセールやレンタルなどが普及することを恐れている。

“ビーガン(完全菜食主義者)は動物性食品を嫌悪しているが、ビーガンだけでなく肉を食べない傾向が増えているのは確かだ。ファストフード大手の米マクドナルドや米バーガーキングは、代替肉メーカーの米ビヨンド・ミートや米インポッシブル・フーズが提供する植物由来の原料でバーガーの提供を始めた。一方、スウェーデンでは、オート麦を原料とするオートリーと、地元発の乳製品多国籍企業アーラ・フーズが長く「ミルク戦争」を展開している。オートリーは「(我が社の商品は)牛乳みたいだけど、人間のために作られたミルク」という広告を展開し、この広告を酪農業界は嫌悪している。”

消費行動で政治や倫理を主張するのは今に始まったことではない。独立前の米国では、英国の植民地政策に反発した米商人らは英国製品を売ることを拒否し、英国から輸入された大量の紅茶をボストン港で海に投げ捨てることまでした。(1773年、ボストン茶会事件)その後、消費行動による主張は特定企業が対象になった。1990年代には、米ナイキと米ギャップが劣悪な労働環境の「搾取工場」で商品を製造しているとの疑惑で非難を浴びた。スイスの食品大手ネスレは2010年、チョコレート菓子「キットカット」の原材料のひとつ、パーム油を採取するためオランウータンの生息地である森林が伐採されたとして「ネスレはオランウータンの血にまみれている」というキャンペーンを否定するのに必死だった。”

肉を食べる、飛行機に乗るといった広く社会に定着した行動に「恥」のレッテルを貼るのは特定企業を批判するより難しい。環境を重視しない行動を批判する動きを持続するのは難しいかもしれない。だが「恥」を武器に使う若者は、企業の広告について思いもしないところから批判を展開するかもしれず、それに反論するのは容易ではない。どの消費トレンドも同じだが、飛行機に乗らない、肉を食べないと言い出した消費者で、実際にその信念を貫く人は少ないだろう。それでも、そうした人々が革命を起こすことは可能だ。したがって企業にとって彼らを無視することは危険だ。”

非常に興味深い記事だったので引用が長くなりました。ちょっとシニカルな論調なのですが、みなさんはどのように読まれましたか。気候変動問題についての若者の主張としては、今年はスウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(16)の活動が注目されました。彼女が始めた「未来のための金曜日」運動はSNSで世界中に拡散し、およそ150ヶ国で数百万人が参加する大きなムーブメントになりました。彼女は米誌タイムの「今年の人」に選ばれましたが、これはこの1年間に起きたことです。

気候変動問題は地球規模の危機ですから、各国が協議して、協力して対処してゆくことが必要です。国連を中心に議論が行われていますが、このようなプロセスは各国の利害を調整するために、往々にして時間が掛かります。そして時間が経過するとともに状況は悪化し、対処のためにはより膨大な努力が必要になります。そして何よりも、より大きな困難に直面するのは、次の世代(若者)以降になります。したがって、若者の主張には耳を傾けなければなりません。彼ら彼女らの主張が、世の中のことを十分に理解していない浅はかなものだとして退けてはなりません。むしろ私たち大人が、次の世代が安心して生活してゆけるように、大人としての責任を果たすことを考えるべきだと思います。

消費行動で政治や倫理を主張することは、これまでにも一般の人々がとってきた手法です。若者は今でも消費者の一部ですが、大人になれば消費者の中心になります。気候変動問題に対する企業の対応も、その場しのぎではなく、将来を見据えたものでなければなりません。不誠実な対応をする企業は、やがて消費者から拒否され、市場から淘汰されるでしょう。地球が荒廃し、人々の生存が脅かされるような世界で、健全な企業活動ができるはずもなく、売上や利益を追求することに意味はないでしょう。とは言うものの、地球規模の課題に個々の企業で対処できることには限度もありますから、将来の地球環境を守ってゆくために、世界の国々が、人々が、企業が連携して、今、行動することが求められているのだと思います。

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