*これからのファッション産業:サステイナブルなビジネスモデルと3R(私見、概論)①

衣料品は私たちの生活に密着した必需品です。「ファッション」は長い間、着飾ること、他人との差異化のひとつの方法と考えられてきました。個人の好みに大きく依存するファッションには、無駄(シーズン、デザイン、サイズ、色など)がつきもので、往々にして過剰生産が行われ、余剰在庫が廃棄されることを続けてきました。

現在、衣料品がもたらすこのような環境負荷に対して、社会(消費者)からも厳しい視線が向けられています。ファッション産業は、従来のビジネスモデルから脱却して、よりサステイナブルな産業に変化しなければなりません。

気候変動をもたらす温室効果ガス排出量の10%はファッション産業から排出されていると言われ、これは空と海の交通からの排出量の合算よりも高い水準です。水の消費については、世界の排水量の20%を占めると試算されています。(*)また1キログラムの衣料品を生産するために、10キログラムのCO2が排出され、500ミリリットルの化学薬品が使用され、およそ2500リットルの水が使われているとも言われています。さらに使用後の衣料品が廃棄(焼却)される際には膨大なCO2を排出しています。

(*)UNECE(国連欧州経済委員会)発表資料(2018年3月1日)より

持続可能なファッションとの付き合い方で大切なことは、服に投資する金額を減らすことではなく、購入する服の量を減らすことです。これは、長く使える(素材、デザイン、縫製仕様)、環境に配慮した(素材、製造プロセス全体、流通)、良質な服を選ぶことを意味しています。物流の観点からは、食の世界で浸透しているように、地産地消の考え方をファッション産業でも取り入れる必要があります。そうすることよって中間流通コストや流通在庫の問題、およびそれらに関係する環境負荷も軽減できるでしょう。

企業と顧客が、今日の情報技術(IT)で直接結びつき、自分に合ったオリジナルの服を一緒に作るビジネスモデル(新しいシステムでのオーダーメイド)が注目されています。そこでは、極力無駄(素材の裁断ロス、デザイン、サイズや色による余剰在庫)を省き、納期対応とコストを抑えるために、様々なテクノロジーが活用される余地があります。購入した服をできるだけ長く使うために、傷んだり、壊れた個所を修理するための材料や、修理できる場所(技術)の提供も求められています。

ファッション衣料と言っても色々な種類(スタイル、顧客層、価格帯、流通経路)があります。それぞれに最適な、サステイナブルなビジネスモデルを構築しなければなりません。ベーシックなカジュアル衣料を展開するSPAであるユニクロは、自社の特徴(製造と店舗の一体運営)を生かした、異なるアプローチをとります。ユニクロは自社でオーダーメイドに取り組む予定はありません。理由は、顧客の欲しいものを即時に渡すことができないからです。同社は、需要予測に応じて店舗ごとの商品構成を柔軟に変え、無駄な商品を製造・輸送することなく、顧客ニーズに対応することを目指しています。これを実現するためには、精度の高い需要予測、柔軟な生産体制、きめの細かい物流体制が必要になります。簡単なことではありませんが、ベーシックなカジュアル衣料が中心のSPAであるユニクロならではのアプローチです。

服の製造過程と環境負荷を真剣に受け止めている、責任ある企業に、個人も投資家も集まる時代になるでしょう。生産者と消費者が「つくる責任、つかう責任」を自覚して行動しなければなりません。生産者と連携して、次々と消費することへ誘導してきたメディアも、ファッション産業がサステイナブルに生まれ変わるために、情報発信の質と伝え方を再考しなければならないでしょう。

ここまでは、主として衣料品の生産と市場投入を適正な範囲に抑制して(リデュース)、環境に配慮した合理的な状態に導くための考察です。いったん市場に投入された衣料品は、最後は必ず廃棄物になります。それまでの製品寿命を最大限に活用することも考えなければなりません。衣料品は「ファッション」ですから、個人の好みが変化したり、体形が変化したり、年齢を重ねることで、まだ使用可能な衣料品が個人としては不用になってしまうこともあります。そんな衣料品をただの廃棄物(無駄)にしないために、できるだけ活用すること(リユース)を考えなければなりません。方法は色々あります。リユースショップへ販売することもできますし、消費者間でECサイトを活用して売買することもできます。視点を変えて、衣料品を所有するのではなく、シェアするサービス(レンタル)もあります。不要になった衣料品をタンス在庫にしたり、安易に廃棄したりするのではなく、その製品寿命を使い切ることを考えましょう。そのための技術やサービスの提供が進んでいます。

それでも、製品寿命を終えた衣料品は廃棄物になります。次に考えなければならないのは、衣料廃棄物を可能な限り循環させるシステム(リサイクル)を考えることです。衣料品リサイクルの困難さについては、このHPでも取り上げていますので、そちらも参照してください。

服を構成する部材と素材:リサイクルを困難にしている理由①

衣料品の輸入浸透比率:リサイクルを困難にしている理由②

使用後衣料品の回収:リサイクルする前に

衣料品のマテリアルリサイクル:その実態と限界

衣料品のケミカルリサイクル:その可能性と制約>の項を参照

不用になった衣料品をただ廃棄物として排出すれば、埋め立てられて長期間地中に残存する(土壌汚染)か、焼却されてCO2を排出します。リサイクルするためには回収して分別しなければなりません。効率的に回収・分別するために、既存の経路や制度の見直しも必要です。一着の服にも、色々な履歴の色々な素材が組み合わされて使われています。リサイクルし易い衣料品の設計(素材、部材の組み合わせ)も必要ですし、精度の高い分別が困難な衣料品を再資源化するための技術開発も必要です。リサイクル後に得られる再生資源の形状、純度、価格などによって再利用される用途(出口)に制約があります。せっかく再資源化(リサイクル)しても、出口がなければ意味がありません。色々な課題はありますが、合成繊維のケミカルリサイクルが拡大すれば、衣料から衣料への循環が可能になります。

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