号外:カーボンネガティブ:CO2排出「マイナス」時代へ
2020年1月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より
“企業に環境対策などを求める動きが強まるなか、温暖化の原因であるCO2の排出量を純減させる「カーボンネガティブ」に取り組む企業が広がってきた。米マイクロソフトは1月16日、2030年までにCO2排出量を純減にすることを目指すと表明した。欧米企業は2025~30年に再生可能エネルギーで排出量を減らす従来の活動から新たな局面に入り、日本企業も対策の見直しを迫られる可能性がある。”
(2019年の世界のCO2排出量は368億トンと、この20年で5割も増えた)
“これまでCO2の排出量を抑える企業の取り組みは、再生エネルギーの導入や排出したCO2を地中にとじ込め排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」が一般的だった。さらに進んで排出量を純減にするには抜本的な発想の転換が必要だ。”
“マイクロソフトはデータセンターや社屋で使う電力を全て再生可能エネルギーで賄い、敷地内の移動などに使う車も電気自動車(EV)に変える。CO2吸収の技術開発プロジェクトなどに投資する10億ドル(1100億円)の基金も創設する。大気中のCO2を回収する技術などを想定している。2050年までには1975年の会社創立以降に出したCO2と同量分の削減に貢献する計画だ。同社は取引先も巻き込む削減を進めており、影響が出るのは必至だ。”
“株式市場は好感した。発表を受けてマイクロソフトの株価は前日比約2%高の166.17ドルに上昇し過去最高値を更新した。国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance:世界持続可能投資連合)によると、2018年のESG投資の運用残高は世界全体で30兆7000億ドル(約3400兆円)と、2014年と比べ68%増えた。”
“家具世界最大手のイケア(スウェーデン)は2030年までに企業のCO2排出を純減する目標だ。2億ユーロ(約240億円)を投じ、サプライチェーンで再生可能エネルギーの利用を促したり、植林活動や適切な森林管理を通じCO2を吸収したりする。”
“日本でも富士通、パナソニック、イオンなどが事業活動で使う電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げているが、「カーボンネガティブ」を表明した企業はまだない。現状は個別の技術でCO2削減に貢献する活動の段階だ。日本郵船は2019年から国際企業連合に参加し、CO2を純減できる運航手法の研究を始めた。CO2を船内でドライアイスに変換し運航しながら海底に送り込む手法の実用化を探る。排出量が実質ゼロに見なされるバイオ燃料などと組み合わせ、CO2の純減を目指す。”
“もっとも急激に脱炭素にカジを切ると企業への影響も大きい。独電力大手のRWEは、独政府が進める脱・石炭火力発電の影響で、2030年までに2018年末の3分の1に当たる6000人の雇用を削減する必要があると発表した。同社は発電所や炭鉱の閉鎖などに伴う経済的損失が35億ユーロ(約4300億円)にのぼる。”
先進的な温暖化対策が新しい技術の創出や、既存ビジネスモデルの革新を促進する可能性があります。と同時に急激な温暖化対策が痛みを伴うこともあります。世界の科学者が警告するように、地球環境が不可逆的な限界点を越えて不安定化する前に、温暖化対策を急がねばなりません。地球環境を維持・改善することによって得られる成果は、世界の人々で共有し、また損失もみんなで負担してゆかねばならないと思います。成果の独占や負担の押しつけによって対応が後手に回れば、結局被害を受けるのは私たちであり、私たちの子孫なのですから。