号外:急激な原油安が再生可能エネルギーへの転換に与える影響!?

2020年3月6日に石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国による協調減産交渉が決裂し、世界最大の石油輸出国サウジアラビアが増産に転じました。3月9日には国際エネルギー機関(IEA)が、2020年の世界の石油需要を下方修正し、米金融危機後の2009年以来、通年で11年ぶりにマイナスとなる見通しを示しました。新型コロナウイルスの感染拡大で世界の経済活動が停滞し、原油需要が減退するとの懸念からも原油価格の下落に拍車が掛かりました。そして同日のニューヨーク市場で原油価格が急落し、約4年ぶりの安値を付けました。WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)先物は1バレル31.13ドルで取引を終え、前週末比で10.15ドル(25%)下げました。WTIの下落率は湾岸戦争が始まった1991年1月に次ぐ水準で、29年ぶりの大きさです。原油価格の急落は金融市場に大混乱をもたらしましたが、クリーンエネルギーへの転換に向けた取り組みにも影響を与えるかもしれません。

2020年3月11日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は歴史的な原油価格の下落について、「間違いなく、環境負荷がより小さいクリーンエネルギーへの転換に向けた機運を後退させる圧力になるだろう」と語った。アナリストらは、この混乱は世界経済の減速とともに、最も野心的な再生可能エネルギーへの転換計画に冷水を浴びせるものだという。”

再生可能エネルギーへの投資は?

“2014~16年にみられた前回の原油安局面とは異なり、現在は英国や欧州連合(EU)を含む多くの国・地域が、今後数十年でCO2排出量を実質ゼロにするという野心的な目標を掲げている。この目標を達成するためにはエネルギー利用の大きな転換が必要だ。今後の状況は、温暖化対策について各国政府や企業が最近表明したあらゆる誓約の「大きな試金石」になるだろう。エネルギー価格が下がると省エネや効率的利用への経済的動機づけが弱まることが多く、エネルギー転換への意欲を後退させる要因になる。”

“石油会社にとっても原油安は、新規開発プロジェクトへの大型投資の魅力を薄れさせる側面がある。石油・ガス会社が再生可能エネルギーに投資すれば既存事業(石油・ガス)の価値を損なうことになるとする議論は、1バレル35ドル(約3700円)の原油価格では成り立たない。現在の原油価格では、世界の石油・ガスプロジェクトの85%以上が利益率15%を割り込む低採算になると言われている。”

“一方で、クリーンエネルギーへ向かう動きはすでに十分な勢いを持っているため、原油安がどのような難局をもたらしても、その流れが変わることはないだろうという見方もある。再生可能エネルギーのプロジェクトは通常、石油・ガス開発より低収益だとされる。しかし、長期的な価格の安定が得られる再生可能エネルギーの開発は、現在のような市況下ではより魅力が高まる可能性がある。

“非常に重大な経済的打撃を受ければ、再生可能エネルギーと気候変動対策は再び政策課題からこぼれおちるリスクがあることは明らかだ。だが、過去の事例ほどひどいことにはならないだろう。すでに経済の移行が大きく進んでいるからだ。実際、原油安で投資家にとってエネルギー会社の魅力が薄れるなかで、脱化石燃料への構造的な転換が早まるとの見方も出ている。

“各国政府は気候変動対策という重要課題から目を逸らせてはならない。新型コロナウイルスや経済市況は大きな問題だが一時的なものだ。おそらく数か月、あるいはもう少し後には市況は回復するかもしれないが、気候変動の問題が消えてなくなることはない。

OPECと非加盟国の協調減産交渉が決裂し、原油価格が急落しています。また米中貿易摩擦、英国のEU離脱、新型コロナウイルスの影響を含めた複合要因で、世界各国で株式相場も暴落しています。エネルギー価格の下落や世界経済の減速は、各国の気候変動対策にも何らかの影響を与えるかもしれません。既存エネルギーコストが低下することで、再生可能エネルギーへの切り替え意欲(経済的動機づけ)が減退するという見方もあれば、既存エネルギー事業からの収益が低下することで、長期的な価格の安定が得られる再生可能エネルギー事業の魅力が増し、脱化石燃料への構造的な転換が早まるとの見方もあるようです。しかし、経済環境がどのように変化しても、気候変動対策の重要性は変わりません。「市況は回復するかもしれないが、気候変動の問題が消えてなくなることはない」のです。各国政府や企業が温暖化対策について表明したあらゆる誓約を堅持して、着実に再生可能エネルギーへの転換を進めてゆかねばならないと思います。

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