号外:仏ダノン、気候変動対策を強化、食品業界に変革の波!

2020年3月5日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“数年前に仏食品大手ダノンの北米法人が、環境や従業員、地域社会など公益性を重視する企業に与えられる「Bコープ」の承認を取得したと発表した際、その持続性に懐疑的な見方を示す人が多かった。Bコープの承認を維持するためには、幅広いサステイナブル(成長持続性)基準を守る必要があるからだ。欧米の大企業でBコープの承認を受けている企業は、まだ数少ない。

“そのときに同社は、地球温暖化の原因であるCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことも約束したが、今週、さらに気候変動対策に力を入れる姿勢を示した。傘下の米国の乳製品ブランド「ホライゾン・オーガニック」で2025年までに「カーボンネガティブ」を実現すると発表したのだ。カーボンネガティブとは、CO2の排出量を吸収量が上回る状態のことで、カーボンニュートラルよりさらに踏み込んだ対策となる。”

“ダノン北米法人によると、CO2の排出量を減らす取り組みの大半は、「川上である農場で再生可能な農業技術を導入するかたちで実現される」という。また、排出枠などを生かしたカーボンオフセット(CO2排出の相殺)への投資も増やす。製品の配達を依頼する物流業者にも再生エネルギーの活用を促し、CO2排出量を制限するように協力を求めてゆく計画だ。”

“ほかの食品大手も対策を求められることになりそうだ。新しい農業技術に対する投資意欲がベンチャーキャピタリスト(VC)の間で高まり、投資マネーを集めて回っているからだ。農場の管理技術から製品の生産体制まで、食品業界全体が変革を求められている。”

“だが、同分野でのイノベーションの動きは鈍いという。通常、農家は25歳で仕事をはじめ、65歳で引退する。その間、種まきから刈り取りまでというルーティンを40回繰り返す。これは、新しい手法を試す機会が最大で40回しかないことを示す。そのうち1回でも失敗したら、農場をまるごと失うようなダメージを負うことになる。これが、農業がリスクを嫌い、保守的になる背景だ。農場はソフトウェアではないので、簡単にあそこもここも変えようというわけにはいかないのだ。

“とはいえ、農業も変わらないわけにはいかない。気候変動が一部の農家の生活を脅かすようになっているからだ。また、消費者の間で気候変動リスクに対する意識が高まり、環境に配慮しない企業の製品を買わないといった動きも出る。ESG(環境・社会・企業統治)に関心の高い投資家が増え、CO2の排出に配慮しない企業に対する監視の目は厳しくなる一方だ。食品業界はダノンの先例を無視できない。

FAO国連食糧農業機関:Food and Agriculture Organization of the United Nations)の資料によると、穀物や家畜の生産から排出される世界の農業部門の温室効果ガス排出量は、2001年の47億トン(CO2換算)から2011年には53億トンへと増加しました。2011年の日本の総排出量が12.7億トン(温室効果ガスインベントリより)ですから、相当の量であることがわかります。2010年の世界の総排出量は304億トン(同資料)ですから、農業部門からの排出量は全体の17%程度になります。ファッション産業からのCO2排出量は全体の10%程度(UNECE:国連欧州掲載委員会2018年3月1日発表資料より)と言われていますから、それよりもかなり多い水準です。

農業部門の中で温室効果ガスを最大に排出しているのは、腸内発酵(家畜が食べ物を消化する際に生成され、「げっぷ」を通して放たれるメタンガスに起因するもの)で、農業部門の2011年における総温室効果ガス排出量の39%(約21憶トン)を占めています。これらの事実を踏まえて、米国を中心に「ミートレス(植物由来の材料を使って味と食感を本物の肉に似せた代替肉を好む傾向)」の動きが広がっています。

ダノンの例に見られるように、食品業界が技術革新とプロセス革新によって、よりサステイナブルな産業になることが、地球温暖化抑制のために必要です。その一方で人口の増加に対応して食料を増産することも必要です。これらの点ではファッション産業と共通する課題を抱えています。俗に言うところの先端産業というわけではありませんが、人間にとって、衣・食という基本的な活動に直結する産業ですから、サステイナブルに継続されてゆかねばなりません。その際に、両産業において、色々な先端技術を活用することが必要になってきます。

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