Spiber、たんぱく糸で量産開始

このHPでもこれまでに取り上げたSpiber社の追加情報です。

クモの糸が導く繊維革命、Spiber(スパイバー)

Goldwin & Spiber、微生物の発酵たんぱく質デニム共同開発>の項を参照

2022年5月20日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

人工たんぱくを使った素材を開発するSpiber(スパイバー、山形県鶴岡市)が、化石燃料に頼らないたんぱくの生産工場を近く本格稼働させる。創業当初は強靭なクモ糸の再現を目指したが、品質に問題が生じて方針を転換した。設計をゼロから見直して理想の糸を紡ぎ出した。”

Spiber社の歴史

”日本海に面した庄内平野にスパイバーの本社と実証工場がある。工場では人工たんぱくの基礎研究をするラボ(実験室)から、微生物の大量培養の条件を検証する大型タンク、紡糸の生産ラインまで自前の設備がそろっている。ラボは「遺伝子合成」「微生物発酵」「紡糸」といった各工程を研究するチームが一つのフロアに集約されている。合成したたんぱくが想定していた性質を有しているか、チーム間の意思疎通を早めて、開発する環境を整えている。”

”まず「遺伝子合成」のチームで、データベースからベースとなるたんぱくを決める。たんぱくを構成するアミノ酸の配列を確認し、特定の性質を担っている配列を別のものに置き換えながら、微生物に組み込む遺伝子情報を設計する。「微生物発酵」では、遺伝子を組み込んだ微生物を数リットル単位で発酵培養する。多いときは1週間で10種類のたんぱくを培養する。50基以上の培養器が備えられ、それぞれ条件を少しずつ変えて同時に稼働させ、生産性が高い培養条件を検討する。”

「紡糸」の研究チームでは、試作機を使って人工たんぱくが繊維化できるか確かめる。粉末のたんぱくを溶媒に溶かしたあとろ過して固め、シャワーヘッドから吐き出して洗浄しながら巻き取る。有望な性質を持つたんぱくは、大量生産の検討に入る。本社の隣にあるパイロットプラント内の大量タンクで検証する。数種類のたんぱくは大量培養できる条件が整った。鶴岡の拠点で確立した量産技術を基に、2022年中にタイで量産工場が本格稼働する。タイで作ったたんぱくを鶴岡に運んで紡糸する。鶴岡では2022年5月、紡糸能力を年間数百トンと従来の6倍に高めた。量産まで至るのに15年かかった。”

スパイバーは2007年、慶應義塾大大学院でクモ糸の人工合成を研究していた関山和秀代表らが創業した。高い強度と伸縮性を持つクモ糸は様々な用途で産業利用できると関山氏は考えた。石油などの化石燃料を使わずに生産できれば、環境負荷軽減にもつながる。2013年に天然クモ糸の遺伝子情報を基に「人工クモ糸」を開発した。2015年には人工クモ糸を衣服の新素材として売り出そうと、試作開発までこぎ着けた。だが、ここで壁にぶち当たる。クモ糸は水にぬれると大きく収縮する特性がある。人工クモ糸も同様で、寒冷地などで雨や雪にぬれると衣服が大きく縮む問題が発覚した。紡糸を工夫することで打開しようとしたが難しかった。”

人工たんぱく糸の製造プロセス

環境に優しく強靭な糸を作って世界を変える。「クモ糸の遺伝子にこだわらず、たんぱくを分子レベルから設計して人口糸を作る」戦略に転じた。2019年に人工たんぱく糸の開発にこぎ着けた。人工たんぱくは特定のたんぱくを作らせる遺伝子を微生物に組み込み、発酵培養して生産する。微生物のエサは植物由来の糖だ。石油や動物由来の素材と比べて環境負荷が低いと期待される。”

”スパイバーは現在、数千に及ぶたんぱくの知見を持ち、それらの性質をデータベース化している。人工たんぱくの商用化では、まず消費者の環境意識が高いアパレル分野を開拓する。タイ工場のほか、2023年には米国工場も立ち上げ生産量を数千トン規模に増やす。関山氏は「例えば高級素材のカシミヤでさえ年間生産量は1万トンある。長期的な視点ではスタートラインにすぎない」と、広く普及する素材に育てて行く考えだ。”

”スパイバーの人口たんぱくの主要な納入先は現在、アウトドアブランドを展開するゴールドウィンだ。ゴールドウィンから2015年に30億円の出資を受け入れ、これまでスパイバーの素材を使ったパーカなどを数量限定で販売してきた。2022年秋冬シーズンから展開される新ブランドでスパイバーの糸を使った衣料を本格的に売り出す予定だ。だが、スパイバーの成長が今後保証されているわけではない。課題の一つがたんぱく糸のコストが割高なことだ。3月下旬に東京都内で開かれたゴールドウィンの事業戦略発表会で、スパイバーの糸を使ったジャケットについて、渡辺貴生社長は「15万円程度になる見込みだ」と発言した。報道陣から「一般消費者には高すぎるのではないか」との質問があった。スパイバーの糸を使った衣服が普及するには、日用品になるだけの価格帯に下げる必要がある。

”現在はアパレルにほぼ特化しているが、生産を増やすには新たな用途開拓が求められる。スパイバーは人工たんぱくを使ったレザー開発に取り組んでおり、財布や靴以外に自動車の内装材への利用も視野に入れている。人工毛髪などの医療分野や、代替肉分野に自社の人工たんぱくが応用できないかも検討している。”

“研究開発型スタートアップとして多額の設備投資をしてきたが、関山代表は「材料メーカーではなく、材料を設計する会社になる」と未来図を描く。自社で生産して新素材の革新性を示した後、生産を外部化し、ライセンスで収益を上げる事業モデルに転換していきたいという。”

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