サステイナブルなテキスタイル
英国のWEB、Spring Wiseに掲載されていた記事です。
英語原文<https://www.springwise.com/tech-explained/sustainable-textile>
テキスタイル(生地)の製造は、最もサステイナブルではない産業のひとつです。テキスタイルの製造は、年間およそ12億トンのCO2換算の温室効果ガスを排出し、これは国際線の飛行機と船の排出量合算よりも多量です。それだけではありません。NPO(WRAP)は、世界のファッション産業は年間およそ790億立方メートルの水を消費していると推定しています。1キログラムのコットンを生産するには、1枚のシャツと一着のジーンズに相当しますが、10,000-20,000リットルもの水を必要とします。土地の使用から染色による化学物質汚染まで、テキスタイル製造はもっとサステイナブルにならなければなりません。
ひとつの技術(方法)だけでは、よりサステイナブルなテキスタイルを製造することはできません。むしろ研究者は、リサイクル原料や植物由来繊維、微生物を利用した生物工学繊維まで、様々な技術を検討しています。さて、どのようにしてサステイナブルなテキスタイルは作られるのでしょうか。
*リサイクル・プラスティックの利用
環境に配慮したひとつの選択肢は、リサイクル原料からテキスタイルを作ることです。例えばペットボトルは糸にリサイクル可能で、その糸からテキスタイルを織ることができます。プラスティックは先ずフレーク状に粉砕され、次にフレークは溶融され、紡糸されます。その結果得られるテキスタイルは、カーボンフットプリントがオーガニックコットンより50%低く、ナイロンより90%、ポリエステルより75%低くなります。
もうひとつの選択肢はEconylです。これは捨てられた漁網やカーペットのような使用後ナイロン廃棄物から作られます。廃棄物は分別・細断され、その後化学反応で解重合され、さらにナイロン6へ再重合されます。この樹脂から糸が作られます。
Econylについては、<プラダの新しいプロジェクト「Re-Nylon」がスタート>の項を参照してください。
*サステイナブルな植物の利用
多くの人々がコットンは再生産可能な原料だと考えていますが、コットンの栽培には膨大な量の水が必要です。またコットン栽培には化学肥料が必要で、これは環境に対して有害です。研究者は、コットン繊維のサステイナブルな代替物を見つけるための開発を続けています。
ひとつの選択肢はTencel(テンセル)で、これはオーストラリアやインドネシアで育つユーカリの木から作られます。ユーカリの木は毒性のある農薬が不要で、少量の水で育ちます。Tencelは染色性が良く、多くの水や染料を必要としません。またレーヨンに似た外観と風合いを持っているので、レーヨンと同種の衣料に使用することができます。
もうひとつの選択肢が、ニューヨークを拠点とするスタートアップで、昆布から生分解性繊維を作る技術を開発したAlgiKnit(アルジニット)から提案されています。海藻(昆布)は、抽出して糸を形成することができるバイオ・ポリマーを含んでいます。また昆布は成長が速く、短期間で再生産可能です。しかもあまりきれいではない環境でも生育可能です。
竹やイラクサ、パイナップルやバナナなどの植物から、次々と繊維が作られています。これらの植物は、コットンと比較すると少ない水と農薬で育ち、より多くの繊維を含んでいます。
バナナとパイナッップルの場合は、繊維は、通常捨てられている皮の部分から作られます。台湾のテキスタイル製造会社であるSingtexは、食物残差から、この場合はコーヒーの出し殻から、繊維を作っています。出し殻はポリマーと混ぜられ、とても耐久性のある生地になります。ミヤンマーでは、蓮の花から抽出した繊維で高級な生地が作られています。その繊維は紡績されてシルクのような生地になります。
*生物工学によって作られた生地
驚くべきことに、科学者は微生物を使って、研究室で生地を“育てる”方法を研究しています。彼らは、工場で縫製せずに、ほとんど完成品に近い服を作ることさえできます。この方法で作られた材料は完全に無害な物質に生分解されます。例えば、Tシャツのような形の型の中で繁殖することで、余分な廃材を発生させることなく、正確な量の生地でTシャツを作ることができます。
生物工学を利用した材料のひとつが、ニューヨーク市のFashion Institute of Technology(ファッション技術研究所)の学生チームによって作り出されました。学生たちは昆布を使う方法を開発しました。チームは先ず、昆布に含まれる糖類であるアルギン酸塩を抽出します。アルギン酸塩を脱水して粉末にし、それに水を加えてゲル(半固体)状にします。そのゲルを紡糸して繊維を得ます。その繊維の染色には、チームは、すりつぶした昆虫の殻のような化学品ではない色素を使います。その繊維は、耐久性があり柔軟で、自然の耐火性を持ち、コットンより速く生分解します。
このプロジェクトのリーダーで助教授のMs. Theanne Schirosは、衣類の材料を“生育する”のに細菌を使う研究をしています。彼女の学生の中には、糸状菌と堆肥化できる廃棄物からなる液体培養から、小さなモカシン一足を“育てた”ものもいました。細菌は繊維質の“バイオ皮革”を生成し、それが靴の形の型を充填しました。靴の仕上げの縫い付けには不要なパイナップルのヘタから採取した繊維を使いました。染料はアボカドの種とインディゴの葉を使って作られました。
別の研究者は、染料を作り出すのに細菌を使っています。研究機関であるFaber Futureは、テキスタイルの染料を作り出すのに、天然の色素を持っている細菌を使います。テキスタイルは培養液に浸漬され、その後にテキスタイル上で繁殖し、テキスタイルを染色する細菌に晒されます。その後、テキスタイルは細菌を取り除くために殺菌され、洗浄して培養液を落とします。このプロセスは従来の染色と比較して少量の水と化学品しか使いませんが、非常に高コストです。
コストはさらに多くのサステイナブルなテキスタイルを使用する際の課題のひとつに過ぎません。材料は、衣類の通常使用に問題のない耐久性を持ち、大量に製造できる必要があります。しかしながら、これらのハードルが克服されれば、テキスタイル産業はよりサステイナブルな産業になることができます。
すぐに実用化できるかどうかは別として、色々な技術が紹介されています。この記事のように、繊維・衣料品のサステイナビリティを話題にするときは、材料などの「入口」の議論が多いように思います。もう少し「出口」、すなわち使用後衣料品のリユース、リサイクル、廃棄(生分解を含めて)に目を向ける必要があると思います。いったん生産されたものは、最後は必ず廃棄物になります。その廃棄物を可能な限り循環するシステムに取り込んでゆくことが、求められているサステイナビリティだと思います。