パタゴニアという企業:レスポンシブル・カンパニー
みなさんご存知のアウトドア関連のアパレルとグッズを製造・販売するアメリカの老舗「パタゴニア」です。このHPでは、パタゴニアが自社製品を修理するサービス「Worn Wear」を展開していることを紹介しました。自社製品とそれがもたらす環境負荷を真摯に受け止め、顧客とのコミュニケーションにおいても全体としての環境負荷を低減することを常に意識している企業です。
<パタゴニア、Worn Wear>の項を参照
2020年3月14日付けSustainable Brand Japanに掲載された記事より、
“「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」。パタゴニアは2018年末、27年間掲げてきたミッションを変えて、新たなミッションを発表した。世界で最も「レスポンシブル・カンパニー(責任ある企業)」として知られる同社はいま何を考えているのか。パタゴニアで企業理念の責任者「Director of Philosophy」を務めるヴィンセント・スタンリー氏がサステイナブル・ブランド国際会議横浜に登壇した。同氏はパタゴニアの創設者イヴォン・シュイナード氏の甥であり、イエール大学経営大学院の客員研究員も務める。”
“「地球の環境はどんどん悪化しています。天然資源も減り、自然環境も悪くなっています」と切り出し、「物事は、生物共同体の統合性、安定性、そして美しさを保つ傾向にある時、正しい」と、米国の生態学者で自然保護主義者、アルド・レオポルド氏の言葉を紹介した。「この言葉はまさにその通りだと思います。生物共同体には、人間も含めすべての命あるものが含まれています。しかし、私たち人間が仕事や日々の暮らしでやってきたほとんどのことは、生物共同体の統合性、安定性、美しさを破壊する方向に動いてきたと感じます。私たちはいま、深刻な危機に直面しています」”
“「私たちが生物共同体の統合性、安定性、美しさを保ちながら、現代的な暮らしを送るにはどうすればいいでしょうか」そう質問を投げかけ、スタンリー氏は続けた。「まず、大切なのは直面している課題に対して非常に謙虚でいることです。そして、どんな方法で製品やサービスが生み出され、結果的にどんなことが起きているのかを理解しようと努めることです。また、悪影響を与えないために何をしなければならないかを考えなければなりません。最期に、私たちは自分たちが向かう先を変えていかなければなりません」。”
“パタゴニアの原点は、ロッククライマーで創設者イヴォン・シュイナード氏が1957年、独学で鍛造を学び、使い捨てではなく繰り返し使えるクライミング用ギアを制作し始めたことにある。ギアの受注が増え、製造が追いつかなくなった1960年代半ば、シュイナード氏はシュイナード・イクイップメントを創業。事業は成長し、1970年までには米国最大のクライミング用ギアのサプライヤーとなった。時を同じくして、クライマーウェアの輸入・製造販売を始めることになり、新たな衣料品ブランドとして1973年に「パタゴニア」は誕生した。”
“パタゴニアは1994年にオーガニックコットンを製品に使用し始め、1996年、すべてのコットン製品をオーガニックコットン100%に切り替えた。しかし創設した当初は、ナイロンやポリエステルは人工繊維でやっかいなもので、コットンは自然の繊維と考えていた。1991年、パタゴニアは使用していた繊維の環境負荷について調査を行った。そこで初めて、ウールやナイロン、ポリエステルと比較しても、化学肥料を多く使うコットンの耕作の方が地球への負荷が高いことが分かった。そして同社はオーガニックコットンに切り替えることを決める。グローバル・サプライチェーンを解消し、米カリフォルニアのサン・ホアキンバレーでオーガニックコットンを栽培することにした。”
“しかし、全量をオーガニックコットンに切り替えることは容易なことではなかった。新しいインフラを構築し、製品自体のデザインやスペックを変え、主要取引先に確認をとり、製造コストも価格もあがる。では、どのようにして社員に納得させたのか。スタンリー氏は、バスを借りて、社員を連れてサン・ホアキンバレーに48回も通ったという。まずオーガニックコットン畑に行き、それから従来型のコットン畑に行った。”
“「バスが従来型のコットン畑に近づいたとき、窓を開けなくても有機リン系農薬のにおいがしてきました。土壌に手を入れると、生物は全くいませんでした。化学肥料の使用を3年間やめないと、ミミズは戻ってきません。他の植物も生育していませんでした。バスの旅を経て、社員は『変わることは大変だけれども、会社は正しいことをやろうとしている』と理解してくれました。」”
“プラスティックの環境汚染はいまや世界的に知られているが、パタゴニアが回収したペットボトルを使って再生フリースを製造し始めたのは1993年のことだ。「リサイクルすればそれでいいというわけではありません。4Rの中でリサイクルは最後の工程です。それには理由があります。まずは素材の使用をリデュース(削減)することが重要です。そしてリペア(修理)です。それを再循環し、不要となったものをリユース(再利用)します。最期にリサイクル(再生)です。」”
非常に明確な主張です。パタゴニアが2018年に新たに掲げたミッションは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。それまでの27年間、「最高の製品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そしてビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というミッションを掲げていました。従来のミッションでは「環境負荷を最小限に抑える」こと、そしてその考えを広めてゆくことを目的にしていましたが、新しいミッションでは「地球を救う」ことを目的にしています。「もはや地球に環境負荷を与えてはならない。この深刻な状況から地球を救わなければならない」という強い意志がうかがえます。そして「ビジネスを営む」としているところは、ビジネスとして成り立つことで、継続的に新しい目的を達成するために努力してゆく姿勢を示しています。
“「2020年を迎え、私たちは大きな転換点にいます。私たちの孫たちがどういう地球で暮らしていくことができるのか、それを決めるのはいまです」。パタゴニアは2025年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言している。そして、新たな化石燃料の製品への使用を2025年までにやめる方針だ。来年までにはその目標の80%が達成できる見込みという。”
更に、パタゴニアがいま新たに取り組んでいるのが環境再生型有機農業です。環境再生型有機農業は土壌を再建し、化学薬品による公害を削減し、気候変動の原因となる炭素を土中に隔離します。食品事業「パタゴニアプロビジョンズ」を立ち上げ、農業を通じて地球環境を再生してゆくことを目指しています。持続可能社会の実現に、一企業として明確なビジョンを掲げ、そこに向けて努力してゆく姿勢は素晴らしいと思います。