号外:脱炭素で2030年削減目標を再設定へ

日本は2020年10月に、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることを表明し、同年12月には、そのための「グリーン成長戦略」を発表しました。欧州連合(EU)、中国も既に長期目標を発表しています。米国のバイデン政権も地球温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」に復帰し、新たな目標を策定しています。これらはパリ協定の「21世紀末までに世界の平均気温を産業革命前より2度の上昇に抑える、可能であれば1.5度未満に抑える」という目標を達成するためのものです。世界では、そのマイルストーンとして各国の2030年までの削減目標に注目が集まっています。日本の現時点の2030年目標は、2015年に掲げた「2013年度比で排出量26%減」ですが、その上積みを求められています。

日本の温暖化ガス排出、2050年実質ゼロへ!

2050年脱炭素実現へ政府の「グリーン成長戦略」>の項を参照

2021年3月23日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

政府は2030年までの温暖化ガス削減の新たな目標を策定する。従来目標より削減幅を広げ、2050年に排出量を実質ゼロにする脱炭素社会の実現に向けた道筋を明確にする。2030年の目標を重視する米欧の動きを意識し、遅くとも主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)がある6月までに固める。米欧は中長期だけでなく、2030年の数値に重きを置く。昨年、欧州連合(EU)が1990年比で55%減、英国は同68%減と高い目標を掲げた。4月には米国やカナダも2030年の目途を打ち出す方向だ。”

2050年脱炭素に向けた道筋

米国は4月22日に主要排出国などを集めた気候変動に関する首脳会議(サミット)を開く。英国が議長国を務める6月のG7サミットでも脱炭素が主要議題になる。日本の現時点の2030年目標は、2015年に掲げた「2013年度比で排出量26%減」だ。政府は2020年10月に2050年の脱炭素社会の実現を表明しており、現行の計画のままでは達成は難しい。具体的な目標値は今後詰める。世界の研究者による組織「クライメート・アクション・トラッカー」はパリ協定が掲げる気温1.5度未満の上昇抑制の目標達成には2013年比60%以上の削減が必要としている。”

“日本は当初、11月に英国で開く第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて目標を示す方針だったが前倒しする。政府はエネルギー基本計画の改定に合わせ、夏までに2030年度の再生可能エネルギーなど電源構成比率をまとめる。現時点の計画では2030年度の再生可能エネルギー比率は22~24%で、上乗せする必要が生じる。水素やアンモニアといった新たなエネルギーの導入や、石炭など化石燃料の削減も前倒しが欠かせない。”

“企業も追加の対応を迫られる。電力を全て再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟する300社弱をみると、欧米企業は8割超が2030年を達成時期にしているのに対し、日本企業は7割が2050年だ。”

“米アップルは自ら太陽光発電所の建設に関わり、すでに自社事業の電力を100%再生可能エネルギーにした。2030年には供給網を含めた排出量実質ゼロを目指しており、部品を供給する企業に再生可能エネルギーなどによる製造を促す。米マイクロソフトは再生可能エネルギーと植林、CO2除去の技術を組み合わせ、2030年までに自社の排出量を上回る削減を目指す。”

主要国の2030年排出削減目標

“自動車産業は欧州勢を中心に急速な電気自動車(EV)シフトに動く。高級車大手のボルボ・カー(スウェーデン)は2030年までに新車販売をすべてEVにする計画だ。日本勢も日産自動車やホンダなどが排出量実質ゼロを掲げる。いずれも目標を2050年に設定しており、どこまで前倒しできるかが課題になる。”

“新しい温暖化ガス削減目標の設定では、発電量に占める再生可能エネルギーの比率を2030年度までにどこまで上積みできるかが大きな焦点になる。発電部門は日本のCO2排出量の約4割を占める。原子力も含めた「脱炭素電源」の比率を高めることが、削減目標の深堀には欠かせない。また課題の一つが設置場所の制約だ。森林を除いた平地などの単位面積あたりの再生可能エネルギー発電量をみると、日本はすでに世界最大になっている。2012年に始まった再生可能エネルギー電力を固定価格で買い取る制度(FIT)のもとで狭い国土に急速に導入した結果、事業者と地元住民の摩擦も目立ってきている。家計や企業の負担も課題だ。FITの買い取り費用は2020年度見込みで既に3.8兆円に上り、標準的な家庭で月800円弱を負担する。意欲的な再生可能エネルギー目標を示す経済団体側も一層の負担増には消極的だ。”

再生可能エネルギー発電の上積みには政府全体で普及を後押しすることが重要になる。農地の転用では農林水産省、環境アセスメントの効率化では環境省の役割が大きい。特に重要なのが住宅・建築物を所轄する国土交通省だ。家庭部門は日本の排出量の15%を占める。住宅の省エネや再生可能エネルギー設備の設置を促す取り組みの強化が必要になる。”

国土の平地面積が少ない日本では、陸上での再生可能エネルギー発電拡大には限度があります。しかし周囲を海に囲まれた日本では、世界各国で規模が拡大しコスト低減が進んでいる、洋上風力発電の普及拡大に期待が寄せられています。

日本の洋上風力発電、2040年に最大45GWに>の項を参照

2011年の東日本大震災および福島第1原子力発電所での事故以降、原発の再稼働が進んでいない状況で、脱炭素(=電力需要の増大=再生可能エネルギー発電の拡充)を進めていくのは非常に難易度の高い作業です。しかし気候変動を抑え、安定した地球環境を次世代に引き継ぐためには必要なことです。またこれを契機として技術革新と産業構造の高度化、国際競争力の強化を実現することもできるでしょう。世界各国の後塵を拝することのないように、しっかりと取り組んでいかなくてはなりません。

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