パタゴニアの自社内循環

サステイナビリティの基本は、手間をかけた良い製品をできるだけ長く大切に使うことです。そのためには傷んだり、壊れた個所を修理するための材料や、修理できる場所(技術)が提供されなければなりません。アウトドアウェアなどで著名な米パタゴニア社は、創業以来長く「修理」することに取り組んできました。

パタゴニア Worn Wear>の項を参照

2021年11月17日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

”東京・渋谷の通称「キャットストリート」の一角に9月、行列ができた。列の先には、アウトドアウェアで知られる米パタゴニアの渋谷店。店内に足を踏み入れると、こんな看板が目に飛び込んできた。「必要ないものは買わないで」。陳列商品をよく見ると、しわがあるなど誰かが一度着たようなウェアばかり。それもそのはず、ここはパタゴニア日本支社が集めた自社の古着しか置いていないからだ。フロア中央のマネキンも、実際に著名人らが着て修理が施されたジャケットなどを着こなす。「これカッコいい」。多くの客が足を止めた。”

パタゴニアの自社古着販売

”約1ヶ月間の限定とはいえ、同社の基幹店の1階を改装して古着だけを扱う店にした。しかもこの時期は、主力商品である秋冬物の立ち上げ期と重なる。貴重なタイミングに古着ばかりを集めて売るというのは、アパレル業界の常識では到底測れない。マネキンのジャケットの一例のように、パタゴニアの取り組みの特徴は自社製品の「修理」にある。普通、量を売ることだけが目的ならば、店側としては新しく買い直してくれたほうがありがたい。それでも無理には売らない。「必要ないものは買わないで」とまで呼びかけている。”

”同社は創業以来長く続けてきた修理の取り組みを2013年に「Worn Wear」と名付けた。直訳で「着古された服」を意味するこのキャンペーンを軸に、ミシンなどを積み込んだワゴン車で出張修理に各地を回った。日本では修理の依頼で持ち込まれる衣料品が年間1万数千点に及ぶという。長い年月と取り扱う点数の多さに評価の声はあがるが、「まだまだ社会全体に十分浸透しているとはいえない」。パタゴニア日本支社でセールス部門のトップを務める川上洋一郎は、サステイナブルへの意識にもっと大規模に、もっと末永く取り組んでいく必要性を訴える。”

パタゴニアのワゴン車

”川上をはじめ同社の関係者は、将来を見据え本当に変わるべきはやはり消費者の行動だと考えている。高品質の服は修理すればずっと着られる。反対に、一生かけても消費しきれないほどの点数の服を買い求める必要などない。川上は「消費者のタンスに眠っている在庫をいかに減らすかを第一に考えた」と、古着店を出した背景を語る。”

”作り手も売り手も、部分的な取り組みは可能だ。環境意識の高まりを受けて、作り手は以前よりリサイクル素材を取り入れやすくなった。売り手が商品を回収してリサイクルに回す流れも強まってきた。それでも現実は家庭や事業所からリユース・リサイクルされるのは年間約28万トン。その倍近い量の衣料品が廃棄へと向かう。だとすると企業側がやれることは、消費者に「そんなに買わなくていいのでは?」「急いで買ってもクローゼットに眠るだけでは?」と吟味と厳選を呼びかけ続けること。そして、社会全体の消費行動のプロセスに「修理」を組み込んでいくこと。川上は2つ同時に進める必要があると話す。”

パタゴニアの川上氏

”古着店も今回こそ期間限定だったが、話題性だけで終わらせるつもりはない。川上らは古着を扱うために必要な許可も取った。持続的活動への準備はできている。パタゴニアは日本の百貨店やスポーツショップなどに卸売りもしている。自社で古着を集めて売るという行動は当然、新品を扱う店の売り上げを奪う懸念がある。反対の声もでたが、粘り強い説得を続けて実現にこぎ着けた。同社の環境問題への姿勢が広く知られていたことも背景にある。”

”パタゴニア社は1973年に登山家のイボン・シュイナードが創業し、ブランド名は南米の地名からとった。売上高は全世界で1000億円規模だが非上場を貫く。本家には前例がある。「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」。この刺激的な文言と自社商品の写真を2011年、米ニューヨーク・タイムズに載せた。米国で最も消費が盛り上がる11月のブラックフライデーの時期に、あえて自社商品を買わないよう訴えた。”

”川上らが本気で目指す「自社内循環システム」の確立。ビジネスとして成り立たせるには課題も残る。値付けはその一つで、一般の消費者から買取する場合、適正な価格の算定が難しい。買取をどこでするのかという問題もある。地球温暖化問題と合わせて、大量生産・大量消費という経済のかたちの是非が世界中で問われ始めた。「パタゴニア1社でサーキュラーエコノミー(循環経済)は実現できない。なんとか参加してくれる企業を増やし、その輪を大きくしていきたい」。川上の言葉に嘘はない。(敬称略)”

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