衣料品の生分解処理:微生物の力と自然な廃棄物処理
これまでに衣料品はリサイクルが難しい製品であることに触れてきました。しかし色々とハードルはありますが、マテリアルリサイクルの出口戦略や、ケミカルリサイクルのシステム構築について努力を継続しなくてはなりません。少しずつでもリサイクルを拡大していくことはとても大切なことです。またリサイクルではありませんが、環境に配慮した衣料品の廃棄処理として、生分解処理の可能性についてもご紹介しました。
<生分解と繊維>、<生分解するポリエステル繊維ができたら>の項参照
生分解性を持ったプラスティックの開発、生分解性を持ったポリエステル繊維の開発は進んでいます。近い将来に、私たちの身近に製品として登場してくることを期待しています。その場合は生分解処理自体についても準備をしておかねばならないことは言うまでもありません。生分解処理というのは具体的にはどのような処理になるのか、少しご紹介したいと思います。
衣料品に使用する生分解性を持ったポリエステル繊維は、衣料品として使用するために必要な耐久性を持っていなければなりません。このように丈夫な素材は、生分解性を持っているとしてもそう簡単には生分解してくれません。微生物は私たちの周りにも沢山いますが、普通の環境下で生分解してしまうような素材では衣料品として使い物になりません。実用化レベルにあるものは、庭に穴を掘って埋めておいても生分解しません。100年ぐらいたったら分解するかもしれませんが、それでは環境に配慮した廃棄処理とは言えません。このように丈夫な生分解素材を生分解処理するためには、それに適した環境を準備する必要があります。生分解の主役は微生物です。微生物が大量にいて、しかも活発に活動している環境が必要です。
皆さんはホームセンターの園芸用品売り場で「堆肥」が販売されているのをご覧になったことがあると思います。「堆肥」は植物に施肥することで、植物の生育を促進します。国内の畜産農家では牛や豚を育てています。牛や豚の排泄物は、畜産農家にとっては何とか処理しなければならない廃棄物です。畜産が盛んな地域には堆肥場と呼ばれる施設があります。周辺の畜産農家は処理しなければならない家畜の排せつ物(堆肥)を堆肥場に持ち込みます。堆肥場では堆肥に酸素を供給するために「切り返し」という処理をしながら、堆肥を発酵させています。「切り返しは」重機で堆肥を混ぜ返すような処理で、それによって堆肥に酸素を供給します。堆肥は微生物と有機物のかたまりで、酸素を供給することで好気性発酵をして微生物が有機物をCO2と水に生分解します。ここでは微生物が非常に活発に活動しています。発酵している堆肥の温度は発酵熱で70度以上になることがありますし、かなり強烈な臭いもします。ホームセンターで売られている堆肥は、この好気性発酵が終わった堆肥で、「完熟堆肥」と呼ばれています。発酵が終わっているので乾燥してサラサラしており、ほとんど臭いもありません。
私が訪問したことのある堆肥場では、近隣の食品工場から排出される食品生ごみを堆肥中で生分解させる産業廃棄物処理を請け負っていました。この処理は有料で、ビジネスとして継続しています。この堆肥場の環境が生分解性を持ったポリエステル繊維の生分解処理に有効です。文献によると4~5ヶ月で堆肥中の繊維は生分解されて消滅するようです。繊維だけではなく、より耐久性の低い生分解性プラスティック(生分解性は高い)で作られた成形品(トレーや小物)であれば、より短期間で処理が可能です。回収された廃衣料(生分解性のもの)から分解しない部材を取り除き、効率的に生分解するように裁断して堆肥と接しやすくして堆肥の中に埋め込みます。あとは適宜切り返しながら堆肥中の微生物が頑張ってくれるのを見守るだけです。
生分解処理の優れているところは、堆肥場という施設は必要ですが、処理するために特別なエネルギーを必要としないところです。発酵中の堆肥の温度は70度以上になることがありますが、これは加熱しているのではなく、発酵熱です。生分解処理は特別なエネルギーを必要としません。時間はかかりますが自然環境に近い(サステイナブルな)廃棄物処理です。ごみ焼却場のような大型の施設は必要ありませんし、燃料なども不要です。また結果として焼却と比較すると40%程度CO2の排出を抑制することができます。
原料(生分解性プラスティック)、素材(生分解性を持ったポリエステル繊維)、その加工によって得られる材料(糸、織編物、ボタン、ファスナー等)の開発、適切な商品企画(設計)ときちんと管理された縫製によって製品ができあがります。かなりの道のりですが実現可能なことです。消費者、使用者には丁寧な説明が必要です。そして回収する手段を整えなければなりません。商品設計が適切であれば、回収された廃衣料は堆肥場で生分解処理することができます。