号外:猛暑のデータセンター冷却対策

記録的な猛暑でクラウドサービスデータセンターの冷却システムに障害が発生し、サービスが一時的に停止する事態が起こっています。ITサービスは今では社会的インフラになっており、その安定稼働は私たちの日常生活に直結する問題です。

熱波襲来!GoogleやOracleの英クラウドサービスに障害>の項を参照

2022年8月16日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

液浸方式の冷却システム

”データセンターの冷却システムがクラウドサービスのアキレス腱に・・・。7月、英国でこうした事態が発生した。記録的な熱波による温度上昇でデータセンター内の空調機器が故障し、米グーグルや米オラクルのクラウドサービスが一時的に利用できなくなった。大量のサーバーが発する膨大な熱にどう立ち向かうかは安定的なデータセンター運用、クラウド運用の要。加えて、データセンターの稼働に伴う温暖化ガスの排出量を抑える「データセンター脱炭素」も、世界で関心の的になっている。より効率的な冷却技術を取り入れたデータセンターの整備は喫緊の課題だ。”

”こうしたなか、NTTコミュニケーションズは7月28日、東京近郊にある共創拠点「Nexcenter Lab(ネクスセンターラボ)」において、データセンターでの利用を想定した次世代のサーバー冷却技術を報道公開した。目玉の1つは、冷却液を満たした容器にサーバーを丸ごと沈めてプロセッサーなどを冷やす「液浸方式」の冷却システムだ。容器をのぞくと、少し黄色がかった透明の液体の中で静かに稼働するサーバーがあった。冷却液は触っても無害で、粘度の低い自動車のエンジンオイルのようにさらさらした手触りだ。冷却液の正体は絶縁性のあるオイル。その中に沈めるには専用のサーバーが必要になりそうだが、実は電源ファンやケースファンを取り外し、CPU(中央演算処理装置)とヒートシンクの間の熱伝導材を交換すれば汎用的なサーバーを使えるという。”

同社の液浸方式では、サーバーの熱で暖まった冷却液を熱交換機に送って冷まし、再び容器に戻している。熱交換器には冷水を常時供給し、熱を吸収する仕組みだ。日本フォームサービスや日比谷総合設備と共同で、2020年から液浸冷却技術を実環境で検証してきた。そもそも冷却液でサーバーを冷やすのは、空調機器の冷気で冷やす従来の方式に比べて冷却効果が大きく、電力利用効率を高められるからだ。データセンターで採用すれば消費電力を削減したりサーバーの設置密度を高めたりしやすい。”

”データセンター業界には「PUE」と呼ぶ指標がある。データセンター全体の消費電力をIT(情報技術)機器の消費電力で割った値で、空調装置などIT機器以外の消費電力が少ないほどPUEの値は小さくなる。理論上の最小値は「1.0」だ。2000年代まで日本のデータセンターはPUEが「2」以上、つまりサーバーなどIT機器よりも空調装置などの方が多く電力を消費するケースが少なくなかった。一方でNTTコミュニケーションズの液浸方式のPUEはNexcenter Labの実証環境で「1.17」だという。同社は最高水準である「1.07」の達成も視野に入れる。液浸のメリットはまだある。冷却液の中は温度や湿度の変化が少なく、ほこりとも無縁だ。結果としてサーバーの故障率を低下させる効果も期待できるわけだ。”

”液浸冷却技術の開発を巡っては近年、様々な企業が名乗りを挙げている。例えばKDDI、三菱重工業、NECネッツエスアイの3社は2021年から共同実証を進めており、2022年3月29日には液浸冷却技術を使うコンテナ型データセンターの稼働実験に成功したと発表した。大成建設とRSI(東京・品川)、篠原電機(大阪市)の3社も2020年に液浸冷却システム「爽空sola」を発表している。NTTデータや米マイクロソフトなど国内外のIT大手も続々と手掛けている。”

注目高まる液浸冷却技術には、メインテナンス性が低く光ケーブルの活用も難しいといった課題が残る。このため各社は複数の次世代冷却技術の開発を並行して進めている。例えばNTTコミュニケーションズは7月28日の報道公開で、2018年から検証中の「リアドア方式」も披露した。サーバーラックの背面扉に冷水を循環させ、ラック内のサーバーが発する熱を逃がす技術だ。同社の試算では、サーバールームの面積を従来の壁吹空調方式に比べて4割程度削減できるという。”

リアドア方式の冷却システム

多くの企業が次世代の冷却技術に取り組む背景には、人口知能(AI)や自動運転など、膨大な計算処理を必要とする技術のニーズが高まっている状況がある。こうした技術を支える高性能なGPU(画像処理半導体)サーバーやHPC(高性能コンピューティング)サーバーは、消費電力と発熱量も膨大だ。2030年にはIT機器の消費電力と発熱量がともに2016年比でおよそ36倍に及ぶとの試算もある。次世代のサーバー冷却技術の開発と商用化は一段と過熱しそうだ。”

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